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晴と雨の××× 10

「……こたくん?」  急に黙り込んだ俺を心配するように声をかけられて……手の力が抜けてその場にうずくまった。   「湯あたり!?こたくんっ!?」 「当たってないよ、別になんもねぇって」 「……大丈夫?お水持ってこようか?」  もう扉は押さえていないと言うのに、虎徹は声をかけてくる以上は何もしない。 「虎徹」 「うん?」 「お前さ、なんでここにいんの?」  すりガラス越しに一瞬茶化そうとしたかのような気配が伝わってきたけれど、俺の声音の変化を敏感に感じ取ったのか、虎徹は扉の向こうでもじもじと体を揺すったようだった。  言葉を探す気配がするから、焦らすこともなくじっと答えを待つ。 「一番は…………以前にも言ったように、こたくんが僕の運命だって信じてるから」 「…………」  つかたる市でそんな台詞を聞くと、まるでαかΩになった気分だった。  でも、瀬能に説明されたように、俺はαでもΩでもなければβでも……そして無性ですらないと言うことだ。  虎徹の言う運命とやらが、俺に当てはまるとは思えない。 「俺は……」  俺とのことを運命と言い、華やかで愛らしい顔立ちと小さくて華奢な体つきを考えれば、虎徹はΩなのかもしれない。  そんな虎徹の運命の相手に、性別が何かもわからない俺がなれるはずがない。 「俺は、そんなの感じない」 「こたくん!?」 「運命とか、何言ってんのって思う」 「ど……どしたの?急に……だって、前の学校にいた時、運命だって言ったらそうかもって返してくれたでしょ⁉」 「あれは  」  あれは…… 「その場のノリで 」 「ノ  」 「あ、いや、勢い、かな」    全校生徒の前で告白されて、キスまでして、運命だって叫ばれたら……もうそう答えるしかないだろう。  真夏の大輪の向日葵みたいな笑顔で、まっすぐこちらを見て告げられる一目惚れ相手の愛の言葉に……逆らえるはずもない。  そう、……一目惚れしたんだ、俺は虎徹に。  ふわふわとした茶色い髪も、爛漫なつぶらな瞳も、元気いっぱいの行動も全部可愛くて。  中身を知って、ちょっと突飛なところに怒りを覚えることもあるけれど…… 「  って、違うっそんな話をしてるんじゃなくて。連絡がない時点で察するだろ?普通は」 「…………」 「距離置きたがってるな とか」  扉の向こうからはカタリとも音がしなくて……  息を飲んだようなその気配が、泣き出してやしないかと神経を尖らせた。 「黙って引っ越したんだから、普通は自然消滅だって諦めるだろ」  泣いて欲しいわけじゃないけれど、だからと言って元の関係に戻りたいわけじゃない。  

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