「どうかなぁ、精子を調べたわけではないけれど、バース性の有無が生殖に関係するわけではないから」 「え？」 　瀬能の軽い言葉に思わず声が上がった。 　俺は学校で、バース性は生殖のための性別だって教わったから、それを覆すようなことを言われてしまうと驚くしかない。 「ああ、まぁバース性が生殖のための性別なのは否定しないけど、人間にはバース性以外に男女性があるんだから別に困らないよ」 「え……それって……」 「バース性で見るなら、オメガでないなら子供は産めないけどアルファやベータなら子供を産ませることはできるし、男女性で見ても産ませるだけなら問題ないよ」 「じゃ、なんで生殖のための性なんですか？」 「バース性から見ると、オメガであれば女でも男でも子供を産むことができるからだよ。そうすれば子孫は増えやすいだろ？」 　思わず、ぽかんとした。 「え……じゃあ、今、バース性ってなんのためにあるんですか？」 　本能だけで生きていた時代ならいざ知らず、今は人間は地球の至る所……宇宙にまでいると言うのに、あえてバース性を必要とする意味が分からなかった。 「うーん……昔あったものが残っているって考えた方がいいかもしれないね」 「……じゃあ、俺が未分化？で、それを調べる必要ってあるんですか？もういらないものなら……」 　とん　と瀬能がデスクを指先で叩くから、思わずびくりと肩が跳ねる。 「君のはー……バース性の可能性かな」 「え？」 　うっすらと口元に浮かんだ笑みは、いつもの胡散臭い笑い方とはまた違う。 　なんだか気味の悪いものを見た気がして、咄嗟に阿川に向けて視線を移すと、こちらも困惑したような険しい表情だ。 「うん、可能性だ。それを調べるのは今後のバース性研究で随分と役に立つはずだよ」 「……」 　そうですか　とでも返せばよかったのかもしれないけれど、それすら返すとまずいのではないかと思わせる雰囲気に、ただただ黙ってカフェオレを啜った。 　研究所から帰りついて、ほっと溜息を吐く。 『つまり、バース性が決まっていないからと言って問題は何もないって話かな』 　そう瀬能の言葉が脳裏に過る。 　 　世の大半の男女はバース性に関係なく恋愛をしているし、関係なく結婚している。 　子孫繁栄と言う点は男女に由らなくてはならないけれど、それ以外ならばなんの問題もないのだ　と、そう瀬能は笑いながら言った。 　そうは言われても、自分の体のことだからはいそうですか　と言うわけに行かないのはよくわかっている。 「俺は……これからどうなるんかな」