俺は、てっきりバース性で決められてしまったのだから『しかたない』のだと思っていたから、照れくさそうにしている阿川が良くわからなかった。 「恋……」 「です」 　照れくさいのか、あはは　と誤魔化すように笑う阿川が恋に浮かれているようにしか見えない。 「恋に落ちても、受け入れられなかったら？」 「？」 　それでもまだ食らいつくような俺の言葉に、さすがに機嫌を悪くするかとじっと息を詰めた。 　けれど、阿川は不思議そうな顔をしただけで、不愉快になった雰囲気ではない。 「そこはもう、二人のすり合わせなんじゃないですか？」 「すり合わせ……」 　現実的な言葉に目を瞬かせると、阿川は困ったように笑って肩をすくめる。 「運命……なのに？」　 「運命だからです。運命って、要は子孫を残すことに関して相性がいいって話らしいですけど、逆を言えばそれだけなんですよ。子孫を残そうとする遺伝子はオレ達の生活なんて考慮してくれません。子供さえ設ければ……って言うやつです」 「え……え？」 「どんなに性格が合わなくても優秀な子孫を残せるならマッチングしちゃいますしね。それに、今まで暮らしてきた生活習慣が一気に変わるわけでなし」 　阿川は「んー」と考える素振りをする。 「バスタオルを洗うか洗わないか　です」 　いい例えだと思ったのか阿川の表情は明るい。 「バスタオルを使い回すのか、それとも一回一回洗濯するのか。なんてことないものだし、どっちでもいいし……って話だけれど、地味にこう言う習慣ってすれ違うとストレスなんです。それをどちらが歩み寄るかは、本人たちの話し合いですよ。でもこう言うのってバース性とか関係なくて、どのカップルや夫婦もやっていかなきゃな話じゃないですか」 「…………」 「バース性とか運命とか、そう言うのってきっかけなんですよ。その後の……めでたしめでたしの後はそれぞれに努力しなきゃです」 　ぐっと握られた拳と鼻息に押されて思わず頷く。 「結婚がゴールなんじゃありません！そこは通過点なんですっ！」 「あ……うん」 「番になったからって安心してたら駄目なんですっ！」 　あまりの意気込みに、阿川は阿川なりに何かあったのだろうかと心配になってしまう。 「……あっ……すみません、なんか瀬能先生の傍に居るせいか話がくどくなってしまって……」 「いや、聞いたのは自分なんで……でも、一ついいですか？」 「はい！」 　何でも聞いてくれとばかりに笑顔を返してくれる阿川に、疑問だったことを問いかけてみる。