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晴と雨の××× 30
何が起こったんだろう と顔を上げると、目の前に靴が見えた。
「え 」
何事かと問いかける前にさっと目の前が暗くなり、ざらりとしたものが頬に触れる。
それが袋を被せられたことに因るものだと自分で答えを見つけたのは、何人かの手で抱えられて車に乗せられた後だった。
誰なんだとか何が起こっているのか と、周りにいる気配に問いかけようとすればできたのかもしれない、けれど被せられた袋が喉で締められているせいで息苦しく、言葉がべたりと喉に貼り付いたかのように出てこない。
もしくは……周りの気配に尋ねても意味がないと本能が悟ったのかもしれなかった。
左右の腕をそれぞれ側からしっかり掴まれていることを考えると、少なくとも俺を除けて三人がいると言うことだ。
高校生の俺を軽々と運ぶことができたのを考えると、柔な体つきでないのもわかる。
……けれど、それだけだった。
会話もなく、視界もないこの状態では他に得られる情報はなく、縋るように状況を理解しようとしていたために保たれていた正気が、じわじわと恐怖に浸食されていって……
ガチン と、一度歯が鳴ってしまうともう駄目だった。
腕に食い込む指の痛みも、息苦しくて酸素が足りずに早くなる呼吸も、何もかもが恐ろしいもので……
「 ひ…………」
「黙れ」
ガチガチと止まらなくなった歯の震えを縫うようにして声が上がりそうになると、短い声がそれを押し留める。
せめて自分自身を抱き締めることができたなら……と腕を動かそうとするも、それも低い声で「動くな」と言われて敵わなかった。
何かあった?
何が起こった?
どうして俺が?
なんで俺が?
状況がどうにもならず、今にも途切れてしまいそうな意識を繋ぎとめるために、どうして誘拐されたのかを懸命に考えようとした。
けれど繰り返し繰り返し幾ら考えても、理由はたった一つ、自分が『χ』であることしか思い浮かばない。
けれど、『χ』なんて特別に呼ばれていても、それだけだと思っていた。
けれど、わざわざボディガードをつけなくてはならない存在であって、
けれど、俺自身はただの高校生だし誘拐したところで何もない。
けれど この男達は俺を誘拐して……
……俺は、どうなるんだ?
こいつらは俺を調べたい?
調べるって、どうするんだ?
瀬能がしたように採血したり、フェロモン値を調べたりするのだろうか?
ただそれだけ?
本当に?
それだけで十分なデータが取れるものなのだろうか?
それじゃあ、他に何をされるんだろう?
……俺は?
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