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晴と雨の××× 32

 そもそも、虎徹から逃げ出さなければよかったのか…… 「……虎徹」  ぽつんと呟くと一人きりのその空間ではやけによく響いて、余計に心細さを募らせることになる。  逃げ出さずに済んだのなら、俺だって逃げ出したくはなかった。  なんたって虎徹は可愛くて、突拍子もなくて……傍に居てくれたらそれだけで毎日が騒がしくて楽しくて、ぐいぐい来られるのも満更じゃなかった。  非常識なとこはあるし、族の総長だったとか言ってるけどそんなこと全然気にならなくて、信じない俺に躍起になる姿も可愛くて…… 「…………俺、どうなるんだ?」  誘拐犯の顔は見ていない。  見えないようにした と言うことは、解放の意志が少しでもあると思っていいんだろうか?  少しの希望を見つけたせいか、はっと顔を上げることができた。  うるさいほどに聞こえていた雨音が小さくなっている気がして……  それでも自分を励ますように、「可能性はあるんだ」って呟く。 「顔を見せたら返す気はない証拠だって、聞いたことがあるしな。俺、あいつらの顔なんて見なかったし……」  だから、  だからきっと、 「  ────戻れる の、かな」  ぽつりと漏れた言葉はひどくか細い。  自分自身で、この後どうなるかわかってしまっているような声音だ。 「  こんな……なるってわかってたら、離れたり しなかった  」  せっかく膨らみかけた希望を、自分自身で萎ませてしまったことにさらにショックを受けて項垂れる。   「虎徹  」  女々しく名前を呼んでも返事なんて返るはずがない。   「  ぅ……」  こみ上げたものを飲み込もうとするのに失敗するともう駄目だった。  ぽたりと涙が溢れて、ぼろぼろと頬を伝って零れ落ちて行く。 「う  っぅ  」  泣いても何もならないのだと泣き止もうとしても駄目で、恐怖か後悔かわからない涙は次から次へと溢れていった。  きぃ と軋んで扉が開く音にひっと喉の奥が引き攣る。  慌てて両足を引き寄せて、ほんのわずかでも身を守るようにじっと体をすくめてみせた。 「  ──── ああ、起きているじゃないか」  聞こえた声は年配の男の声だ。 「向こうに連れて行くまで大人しくしててもらいたかったのだが……」 「まぁ、その時はまたあいつらに頼めばいいだけのことですよ」  そう会話をする声を聞いて最低二人の男がいて、この二人は俺を誘拐した男達とはまた別の人間なのだと理解する。  それから……俺はここに一旦置かれていただけで、ここから更にまたどこかに運ばれて行くこともわかった。 「そうですね、少しでも騒ぐようでしたらそうしましょう」  

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