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晴と雨の××× 33
俺に聞こえるように言うって言うことは、警告なんだろう。
抱え込めない膝をできる限り胸の方に寄せて、ただただぎゅっと身を縮める。
「随分と大人しいじゃないか」
「…………」
伏せたまま答えを返さないと、カツカツと硬い靴音がこちらへ歩み寄ってくるのがわかった。
雨が完全に止んでしまっているせいか静かなここでは、男の靴音が妙に響いて大きく聞こえて、ゾワゾワとした恐怖感に息が詰まりそうだ。
「誘拐された理由くらいは尋ねるものだと思ったけれど?」
「…………」
「心当たりがあるのかな?」
カツン と一際大きな音が傍で鳴って「ひっ」と反射的に声が零れた。
「どうせ瀬能から説明を受けているんだろう?」
「……俺は……何も」
聞いてない の言葉は、ガツっと上がった靴音にかき消される。
「ひ ……俺……俺が、未分化 の、バース性だって ことしか 」
気づけば体は震え出していて、言葉は途切れ途切れだ。
妄想の中では、誘拐されたら縄抜けして敵の隙をついて逃げ出す……なんてこともできたけれど、実際は恐怖に体が竦んでしまって声すらまともに出ないことに、この時になってようやく気が付いた。
喉が干上がったせいか貼り付いて、幾ら唾を飲み込もうとしても痛みだけが起こる。
「ああ、それだけ聞いているなら十分」
「…………」
「君には我々の下で研究に協力してもらうよ」
瀬能にも言われた言葉なのに、どうしてだかこの男の声は信用ならなくて……
協力と言っておきながら強制なことを隠しもしない姿が恐ろしくて、俺はずっと顔を伏せたままでいた。
「俺……おれ、なんか……調べても…… な、なにも 」
「君は可能性の塊なんだよ」
急に興奮したような声を出されてぎゅっと体に力を込める。
何がこの男を刺激してしまったのかわからず、石のようにじっと身をすくめて息を潜めた。
傍らの男は、俺のことなんて意識の外にあるのか、俺の反応なんて気にもせずに良くわからない言葉をわめきたてている。
この男に比べたら、瀬能はずいぶんまともだったんだとわずかに残った冷静な部分で思う。
「 つまり君はっアルファの世界を作ることができるんだよ!」
高らかに宣言するように叫ばれ、理解しきれなかった俺は「は?」と声を漏らして思わず顔を上げた。
見上げた男は、スーツを着た中年の男だった。
たぶん……俺の親よりも幾分も年上で、祖父の世代と言ってもおかしくはないように見える。
口角に泡をつけながら、懸命に説明をしている姿は、何かにとりつかれているようにしか思えない。
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