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晴と雨の××× 34
「選択的に性を決めることができれば、劣るベータなんて存在しなくなる!」
「なに、言って……」
「この世界を統べる選ばれたアルファたちとそれらの胤を効率的に産むオメガと……アルファが増えれば世界はもっと発展する!これは人類が進化するかの岐路なんだよ!」
男の言葉に気持ち悪さに返事もできずにごくりと唾を飲み込む。
「無性やベータ、オメガなどとは比べ物にならないほど優れているアルファの世界を君も見てみたいだろう!?すべてが優れ、劣るものが駆逐され、この世は完璧で美しい物になる!」
「…………」
「君はその世界を作るためのまさにkeyだ!」
飛んだ唾が頬に当たったが縛られた手では拭うこともできない。
いや……例え手が自由だったとしても、今へたに動いたらこの男の逆鱗か心の琴線に触れてしまう、そんな気味の悪さを感じて微動だにできなかった。
「君の性別の転化システムがわかれば、その素晴らしい世界が作れるんだ!下らないベータなんかいらないし、ましてやなんの特別な能力のない無性なんて以ての外だ!今はただ数に押されているだろうけれど、これで数が増えたら無性の奴らなんてあっと言う間に衰えるだろう!」
男の声音はますます高くなり……
自分の言葉に没頭して喚き散らす男の目に俺は映っていないように思える。
「そうすれば、数が多いだけの無性なんて……無性なんて……」
男の喉がひゅうとなり、呻く言葉がまるで譫言のように繰り返されるようになる。
まるで悪夢の中でたった独り、自分の正しさを主張し続けているような雰囲気だ。
「ああ先生、ほら、少し落ち着きましょう」
「……あぁ」
ずっと黙っていたもう一人のスーツの男に促されて、先生と呼ばれた男はよろよろと資材が詰まれた場所に行って腰を下ろす。
介護するように先生を促していた男は、途中でこちらを振り返ってにやりと笑った。
「 っ」
その笑みは、例えるなら……なんだろう?
蛇?
狂人?
明らかに一般人のそれとは違う雰囲気にぞっとする感覚だけが残って、床に座っていたために冷えた体をさらに冷たくする。
カチカチと震えで歯が鳴ったけれど、それをどうにかする術を持っていなかった。
先生に向けて宥めるように声をかけ続ける姿を見ながら、振り払えない悪寒にただただ耐える。
「ああ、お迎えが来たようですよ」
スーツの内ポケットから出した携帯電話を確認し、男は労わるような声音で先生に告げて俺の方へと歩いてくる。
「…………」
「さぁ立って」
「……っ」
足首と腕を拘束された状態で立てるものなのかと迷ったが、この男の言葉を無視することはできなかった。
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