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晴と雨の××× 35
よた と立ち上がってはみるけれど案の定バランスがうまく取れないまま前に倒れそうになり、慌てて膝で踏ん張る羽目になる。
せめて寄り掛かれるものか、もしくは手を貸してくれたら簡単にできるだろうにと思うも、この男は冷ややかにこちらを見ているだけで手を貸してくれそうな雰囲気はない。
……明らかに、一般人ではない。
そう思わせる空気があった。
見た目は柔和で道を聞いたら優しく丁寧に教えてくれそうなのに、実際は遠回りの棘の道を教える とか、しそうな感じの人だと思った。
「スズメくん」
「はい、先生。そのサンプルはどうやって持って帰るの?」
「そうですね、歩かせて運びます、その方が傷もつきにくいでしょうし、平和的です」
スズメと呼ばれた男はさっと手を広げる。
「その方がお互いにとってもいいでしょう」
その言葉はまるで演説で朗々と響き渡らせる世界平和を語っているかのようだ。
張りぼてで、口だけで、言っている本人自身が一番信じていない……そんな、言葉。
「ほら、立てなそうだし、手を貸したら?」
「けれど先生、私の手は箸より重いものは先生の手ぐらいしか持ったことがありませんので、非常に非力なこの体が恨めしくはあるのですが、あれを支えるのは無理のようです」
「ああそう。じゃあ なんだったかな?」
「あの子は一人で歩かせましょうか?」
「ああ、ああそうだ。それでいいだろう。いざとなったら足を切ってて手押し車に乗せたら楽だよ」
「あはは、先生はジョークのセンスも素晴らしい、面白い冗談ですね」
「いや。冗談じゃないよ? 『審判のあの日』、そうやって足を切ったオメガ達を倉庫に投げ入れていたんだ」
「そうなんですか!?それは骨が折れましたでしょう?」
「あはははは!まさに骨折れだよ!」
二人の会話が頭の上を通り過ぎる。
その話の内容をすべて理解することができたわけではなかったけれど、先生と呼ばれた男がクズで、そんなクズをよいしょしているのがドクズだってことだ。
「とりあえず足の縄を解けば勝手に歩くんでしょ?外してやって」
先生が簡単にそう言うから、とスズメと呼ばれた男はちらりと面倒そうに細い面をこちら向けて睨みつけてくる。
けれど「早く」と言う先生の促しで、考えが途切れたのかポケットから取り出したナイフで俺の足を拘束していた縄を切り始めた。
ぎぃぎぃ
鋭く鈍く光る刃は良く手入れされて切れそうだったのに、どうしてだか縄はさっさと切れてはくれなかった。
縄を作り上げる幾つかの繊維がビチビチと嫌な音を立てて切れただけだった。
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