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晴と雨の××× 36

 足の間に刃物がある居心地の悪さに逃げ出したいがそれもできず、だからと言って縄を切っている光景を見ていられる気分でもなかった。  手袋を嵌めた手がぎぃぎぃとロープを切る場面から視線を逸らし、仕方なく大人しくなった先生の方へと視線を投げる。  演説を披露するような口調は収まっていたが、それでもどこか中空に向けてぶつぶつと問いかけてはにやりと笑い、からかうように肩をすくめてまたぶつぶつと呟いている。  そう言うことがわかるわけではないけれど、俺から言わせて貰えるならば……あの先生はボケているんじゃないんだろうか?  もしくは精神錯乱をしている?  思い当たる言葉はいくつか出たけれど、拘束されてどうにもならない状態ではお近づきになりたくない人間だ と言うのだけははっきりした。 「立て」  簡潔に言われてしまうと、考えるよりも先に体が動く。  よろよろと立ち上がった俺を満足そうに眺めて、スズメと呼ばれた男は先生の方へ向けて顎をしゃくる。  そちらに行け と言う指示なのはわかるが、言葉を発する気もないようだった。  人として、尊重する気はないと言われているようでじっとりと嫌な汗が背中を伝う。  足が自由になれば、走って逃げられるんじゃないだろうか?  そんな思いが過るけれど、腕を拘束されている段階で逃げ切れるほどの速さで走れる気がしなかった。 「…………」  項垂れて……足を動かすしかできない。  一歩が震えるけれど、二人の男は慮ってくれないだろう。 「……スズメくん、やっぱりアルファじゃなくオメガにするべきじゃないのか?」  共に部屋を出ようとした先生が急に立ち止まって振り返る。 「先生、話し合いましたよね?」 「そうだが、オメガなら卵子が取れるじゃないか!」 「でも精子の数の方が多いでしょう?産む限界と産ます限界では段違いです」 「…………」  はっとした表情になり、先生はそうだった……と呻きながら項垂れる。 「そうだった……ラットのアルファの射精の回数と量は……」  ぶつぶつと呟き始めた姿に、思わず足が止まった。  この二人は、何を言っているのか?  俺のことを言っているのだろうけれど……まるで、人間に対する言葉ではないように思える。  いや……この二人は、俺を実験用の鼠か何かだと思っているんだと……こちらを見る冷ややかな目で思い知る。   「……っ」  とっさに周りを見渡してしまったのは、なんとかこの二人から逃げ出すことができないかと思ったからだ。  建築途中の建物ではあるけれど、壁は作られてしまっていて出ようとするならドアしかない。  

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