「何下らないことをしているんですか」 「だって、この子が僕とのことを知りたがってたからさぁ」 「そんなもの、今でなくてもいいでしょう」 　切り捨てるような言葉に、獅子王は癖なのかまた片方の眉だけを上げて肩をすくめてみせる。 「…………どこでも自由にできるとは、思わないでいただきたい」 　低い声は威嚇する雰囲気を持っていて、俺には良くわからなかったけれど、先ほど獅子王が何かしたことに対して酷く苛ついているようだった。 「はぁい」 　その返事は明らかに不服と言う感情が漏れ出していて、獅子王の性格のきつさを物語る。 　あのスズメ相手によくそんな口が利けるものだと、そろりと獅子王を覗き見ると綺麗なアーモンド形の目が面白そうに細められた。 「…………」 「ほら、行くよ」 　声だけではなく、促すように伸ばされた形の良い手は俺に向けられていて、最初に見せてきた刺々しい態度ではない。 　だからと言って手を縛られたままの俺にその手を取ることはできなくて、獅子王と同じように片方の眉を上げて肩をすくめてみせる。 「あ……そうか」 　それだけを零して何事もなかったかのように歩き出す。 　どうにかして逃げ出すことも考えてみたが、どうにもできずに促されるままに裏口らしい場所に着く直前、スズメがさっと足を止めて獅子王の方へ振り向く。 「どう言うことですか？」 「え？」 　突然言われて獅子王自身が戸惑ったらしく、びっくりしたようにこちらを見てから首を振る。 　どう言うことかと声を上げようとする前に、スズメは険しい顔つきでこちらへと足早に駆け寄ってきた。 「わっ……何っ何……だっ　　」 　引きずられるように逆方向へと引っ張られて、わけもわからないまま引きずられる。 　 「獅子王さん、つけられましたね」 「!?　なっ……そんなはず……」 　スズメの言葉に、暗くてもはっきりと分かるくらい顔色を青くして獅子王は首を振った。 「う……運転手はそっちの奴だし、僕のせいじゃないよ！」 「…………ええ」 　低くそう返すものの、納得はしていないような声音だ。 　つけられた？ 　誰かがここにきた？ 　俺を……助けるために？ 　はっと一筋の希望が生まれたような気がして、連れて行こうとされていた裏口を振り返る。 　何か変化があったようには思えないけれど、スズメが険しい顔をしているのだからそこで何かが起こっているんだろう。 「　　た、　たす　　────っ」 　獅子王の手が伸びて、俺の二の腕をきつく掴む。 　食い込むほど強く握られた腕は痛んだけれど、それ以上に獅子王が真剣な表情でこちらを見ていた。