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晴と雨の××× 43
「こたくんだっかーん!」
こちらににぱっと笑いかける虎徹はいつも通りの、空気が読めないくらい能天気な雰囲気のままだ。
「こ、てつ……」
「はーい」
可愛らしく返事を返してくれるけれど、事態はそんなのんびりしている場合じゃないはずだ。
殴り飛ばされたスズメの方へ注意を向けようとした時、
「兄さんっ!」
そう叫び声が聞こえた。
声の持ち主は獅子王で……
なのに呼びかけられた虎徹はきょとんと首を傾げてみせただけだった。
気まずい雰囲気に獅子王の方を見ると、思った通りの反応が返って来なかったせいか赤い目元をさらに赤くしてショックを受けているような表情だ。
そして、その顔をよくよく見て思う。
虎徹が大人になったら、こんな顔立ちになるのかもしれない と。
「……ああ!獅子王?」
考え込むふりを見せた後、心当たりがあるとばかりに大きな声を出す。
「獅子王だよね?すごーい!どうしたの?おっきくなっててお兄ちゃんは気づかなかったよ!あはは!」
はしゃいだ声はさっきスズメを殴り飛ばした人物と同じには見えない。
「……獅子王さん、この人が?」
吹き飛ばされて派手に倒れ込んだと言うのに、スズメの表情は何事もなかったかのように淡々としている。
ただ頬の赤みと切れた唇が、虎徹にされたことを物語っていた。
「初代ですか?」
「……兄さん、久しぶり」
スズメの言葉に返事をしないまま、獅子王は真っ直ぐに虎徹を見詰めて言葉を絞り出す。
「うん、久しぶり。かっこよくなったねぇ」
「兄さんは……なんて言うか……なんか……うん……」
獅子王がその先を濁したのもうなずける。
久し振りに会ったらしい兄がセーラー服を着た中学生みたいな外見をしていたら、幾ら可愛らしくても言葉にしていいのか迷ってしまうだろう。
「獅子王はこんなとこでナニしてるの?」
虎徹の無邪気な問いかけに獅子王がはく……と唇を開きかけて引き結ぶ。
「ナニ、してる、の?」
声音は相変わらず弾むようだった。
なのに……空気が重苦しくて吸い込むことすら困難な粘つく液体になったように感じる。
「……に、兄さん、に、こ、こい……恋人が、できたって だから、見に……」
「うん!そうだよ!こたくんだよ!挨拶はできた?」
小学生でももう少しましな紹介をするのでは思ったけれど、いつもぱっちりとしてきらきらしているどんぐり眼に浮かぶ昏い光に言葉が詰まった。
そのまま、重い空気が段々と肺を満たして行って……
「に、 さ……っやめて ……」
「獅子王」
ひぃ と獅子王の喉が小さく悲鳴を上げる。
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