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晴と雨の××× 51

 数か所のΩシェルターで同時に起こったそのテロは、被害者がシェルターに保護されていたΩ達だったのにもかかわらず、Ωがその魔性で誑かしたために起こった事件として扱われていた。  今でこそその理不尽さにおかしいと声を上げる人もいるが、当時は軒並み世間の意見がそちらに傾いて……  Ωの社会的地位が地に落ちたのはこの事件のためと言われたりもする。    それでも様々な人の働きかけによりΩの地位は向上したと言うけれど、誘拐事件の時に肌で感じたことを考えるとバース性に於いて人権なんてあるのかな?と思ってしまう。  この世界の大半を占めるのは無性の人間で……どうしても少数派は虐げられてしまうのか…… 「……生きづらいですか?」 「え?」  俺の唐突な質問なのに阿川はすぐに理解したようだった。 「オメガは搾取されます、アルファも結局は搾取対象でしかありません」  てっきり、生きづらいとだけ返されるのだと思っていただけに、その返事が意外で目を瞬く。 「どちらにしても、弱ければうまく使われるだけです。でもこれは性別でどうこう言う物じゃないと思います。無性でも強くて強かな人もいますし、アルファでも弱い人間は弱いですし。ベータでも全然歯が立たない人もいますから」  はは と乾いた声が上がる。 「現に、アルファなのに水谷さんには敵いませんから」 「え⁉アルファなんですか⁉」 「ほらね、そんなもんなんです。結局は個々人の資質なんです、だから、アルファだから優れてるって言うのもないし、オメガだから劣っていると言うのもありません。オメガはヒートもありますが、どんどんいい抑制剤ができていますから克服できると信じています」 「あ、いや、首に歯型があったから……てっきりオメガだと思ってて。番になる時にアルファがオメガを噛むんでしょう?」  誤解させてしまったことに慌ててそう言うと、阿川は襟元を押さえて「ああ」と頷く。 「そうですね、普通はオメガだけが噛まれるものなんですけど……」  そう言って阿川は照れたように頬を赤らめる。  首筋の噛み傷が、阿川にとっては宝物だとでも言いたげだった。 「オレの番もここに居るので機会があれば紹介しますね」  番の話をする時にへにゃりと表情が崩れるのを見ると、二人の相思相愛ぶりがわかるようだ。  αとΩの間にある特別な番契約は一生ものだと聞くから、俺とあまり変わらない年で生涯の伴侶を選んだってことなんだろう。 「……」 「どうかしました?」  余程変な顔をしてしまっていたのか、阿川がキョトンと尋ねてくる。  

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