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晴と雨の××× 56

「みみみみ、水谷さんっ」  振動のせいでジュースがカタンって小さな音を立てて倒れる。  幸い中身はたいして入っていなかったけれど、広がるオレンジ色に慌てて立ち上がった。 「君、こたくんが恥ずかしがらないといけないような、ナニを言ったの?」  畳みかける言葉を言う虎徹を見上げる阿川は真っ青を通り越して真っ白で、ぶるぶると震えながら首を振っている。 「ち、ちが、  っ虎徹!落ち着け!阿川さんは相談に乗ってくれてるんだからっ」  がばっとその小さな体にしがみついて叫ぶと、はっとした顔をして虎徹はこちらを振り返って申し訳なさそうに頭を掻いた。 「ごめぇん……だって、こたくん、可愛い顔してたから  」 「な、何言ってんだよ」 「番がいるからって安心してたけど、こたくんの魅力はそんなの関係ないもんね。不肖の弟子が横恋慕したのかと思っちゃった!」  あはは!と高らかに笑う。 「そんなことになったら、僕せっかくの弟子をなくすところだったよー」  と、無邪気な声が続き……  阿川は泣きそうな顔で俺をチラチラ見て、「どっちのなくすですか」と怯えた声で問いかける。 「んふふ」  可愛らしく笑ってみせればどうにかなるとでも思っていそうな笑顔で、自分のせいで倒したオレンジジュースを拭き始めた。 「ってか、どこから落ちてきたんだよ」 「うんー?上?」  なんてことのないように言うが、見上げた先はただの天井だ。  解放感を求めてか、随分と天井は高く作ってあるがそれでも配管と電球があるだけで人が何かできるような窓や屋根裏への入り口があるわけではない。 「…………」  深く考えちゃダメなのかもしれないと仰ぎ見ていると、虎徹がちょこんと俺の前で居住まいを正した。 「んで、僕のおちんちんがなんだって?」 「聞こえてんじゃんっ!」  思わずわっと突っ伏するけれど、それで目の前の虎徹は消えてなくならない。 「おちんちん見たいの?」 「見たくないっ!直せっ!」  ひらひらとしたセーラーのスカートをたくし上げようとするのを止めると、どうしてだかひどく残念そうな顔をされて、どっと脱力を感じて項垂れた。 「こたくんになら、いつでも見せてあげるよ?」 「少なくとも今じゃねぇ!」  きつめに言うとなぜだか虎徹はショックを受けたように目に涙を浮かべてびくりと体を跳ねさせる。  それはまるで、俺の方が無理難題を言って虎徹を困らせているかのようで……    とっさに阿川に意見を求めるも、視線を逸らされてお終いだ。 「あ……えっと、じゃあおっぱい見る?」  思わず崩れ落ちそうになって、再び机に突っ伏した。

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