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晴と雨の××× 60
見た目に反してびっくりするほど真っ当な言葉だ。
「まずはきちんと理由を聞いたのか?いつもの調子で誤魔化しや力押しでどうにかする気じゃないだろうな?」
「……」
珍しく虎徹が神妙そうな顔をして口を開かない。
「……こたくん、僕を避けてる理由は?」
虎徹が騒がなくなったせいか、食堂内はしんと静まり返っていて、それが俺にプレッシャーを掛ける。
「虎徹を好きだから、嫌いになりたくないから別れたい」
なんて矛盾してる言葉なんだと思うし、結局は親と同じことをしているんだと思うと泣けてくるが、それでも俺は虎徹を嫌いたくない。
こんな訳のわからないことで別れを告げなければならないのはどうにも腹立たしい。
俺だって、二人のことなんだから二人で話し合って、虎徹が言うように擦り合わせて、お互いのことを理解し、尊重しながらやっていくものだと思う。
「なん で?」
「理由はわかってるだろ?」
何度も何度も口に出すような問題じゃないから、思わずそんな言い方になる。
たぶん、俺も虎徹もプラトニックな関係があればそれでいいって思える人間だったならそんなことはないんだろうけど、残念ながら年頃の人間相応にその手の欲は厄介なほどついて回ってて……
そんなきれいごとは口に出せそうになかった。
「だから、こんなとこまで追いかけさせて悪かったな」
ぎゅうっと虎徹の眉間に皺が寄るのが見えて……
泣いたら、どうしよう なんて、馬鹿なことをぼんやりと考えた。
「何してるんだい君達」
飄々とした声音にその場の雰囲気は一瞬で壊され、今にも泣くんじゃないかって顔をしていた虎徹ははっといつもの表情に戻る。
全員の視線が、タブレットで肩を叩きながらうんざりしているような表情をしている瀬能に注がれて……
「なんか騒いでるって問題になってるよ?ダメだよ?ここで暴れたら。出禁にしちゃうよ?」
食堂の方に軽く手を振ると、警備員らしき人が頭を下げて帰って行く。
最初は隅っこでこそこそと話していたはずなのに、いつの間にか大きな声を出しているし、人数も増えてしまっていて、これで注目されないでいるのは難しいだろう。
「あ、す、すみませんっ!林原さんと話してて……」
慌てた阿川が間に入ってなんとか収めようとしてくれるけれど、瀬能はそれでどうにかなりそうな表情をしてはいなかった。
「何か問題が?亀の甲よりって言うだろう?よければ聞こうか?」
よければ なんて言いながら椅子に腰かけるから、話を聞かせないと出て行かせない気でいるんだろう。
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