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落ち穂拾い的な 瀬能先生いろいろアウト!

「そう言えば、何をしたら猟銃持って追いかけられるような事態になるんですか?」  しずるは以前に温泉で見た瀬能の体についた無数の傷跡を思い出しながらそろりと尋ねる。  聞いたら消される とか言うんじゃなかろうかと思っても後の祭りだった。 「ああ、あれかぁ」  瀬能はちょっと首を傾げて懐かしむように伸びをする。  そうすると首元に少し隙間が開いて、そこから鎖が見えた。  そこに、指輪が引っ掛かっているのをしずるは知っていたが、どうしてそれを持っているのかは知らない。   「それはねぇ……」  少し言いよどむ雰囲気に、書類を整理していた手が止まる。  自分よりはるかに年上のこの医者の人生がどんなもので、どんなことがあったのかはまだ人生駆け出しのしずるには想像ができないものだった。 「お預かりしてた恩師の娘さんをうっかり孕ませちゃって」  テヘペロとでも言いたげにさらりと零された言葉に、思わずしずるの手の中から書類が落ちる。 「は⁉」 「いやぁ、御挨拶に向かう時は人生で一番緊張したよね」  はは と笑っては見せるけれど…… 「まぁ玄関潜った時にはすでに猟銃を持ってたんだけどね」 「……」 「びっくりしたなぁ、あはは!」 「それ、あははで済む問題ですか?」 「すまなかったから追いかけ回されたんだよ」  と、返事は返るものの、その言葉はあまりにも軽く、しずるは胡散臭いものを見る目つきで瀬能を睨む。 「……雪虫に近づかないでくださいね」 「いやいやいやいや、僕、女の子の方が好きだから」 「女の子⁉」 「それは言葉の綾だからね」  そう言うもしずるは胡乱なものを見る目をやめる気はないようだ。 「いやまぁ、ちょっと年は離れてるけどさぁ、愛妻家で通ってるんだよ?」 「え?でも瀬能先生って家に帰ってます?」 「……かえ、ってるよ」 「育児に参加はしました?」 「し、したよ~できる限りはしたと思ってるよ」  「思ってるだけじゃ愛妻家は名乗れませんからね!」  強く言い、しずるは落ちた書類を手早くまとめると帆布で出来た鞄を肩にかける。 「んじゃあ書類はまとめておいたんで、オレは帰ります!」 「え⁉もうできたの⁉」 「そりゃできますよ、ちゃんと手を動かしてますもん。それにオレはこれから畑見に行かなきゃなので急いでますし」 「あ……雪虫に食べさせる野菜作ってるんだっけ?」 「はい!やっぱその方が安心かなって」  安心と言うより、自分で作ったもの以外を受け入れて欲しくないと言うαの独占欲の現れなんだと言うことを、瀬能はぐっと飲み込みこんで手を振った。   END.  

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