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落ち穂拾い的な 水谷虎徹と言う男は…
ぶるぶると体を震わせながら毛布にくるまるしずるの顔色は紙のようだった。
「温かいものでも飲むかい?」
「……いいえ、喉を 通りそうに ないんで」
切れ切れに呻くように言うと、青い唇を引き結んで押し黙ってしまう。
瀬能はふむ と観察しながら、その調子の悪さがα用抑制剤の使用のためだけではないのだろうと震え続けるしずるを眺める。
これは、自分よりはるかに強い優性を持ったαに押さえつけられた時に出る症状だと、瀬能は長い経験からわかっていた。
「…………先生、あれは、なんですか」
「あれ?」
「……水谷さんの……」
思い出したのか、しずるはぶるりと大きく体を震わせて慌てて毛布をぎゅっと掻き合わせた。
「あー……水谷くんは、うーん……理想のアルファ かな」
瀬能の物言いに、しずるは顔をしかめてみせた。
いいたいことがいろいろあるのは良くわかっているが、すべてを一瞬で説明できるわけじゃない。
「アルファの理想形態が彼だってことだよ」
「……なに言ってるんですか、水谷さんはベータ……」
と、言いかけてはっとしたように瀬能に視線を遣る。
「彼は、誰よりも優性の強いアルファ因子持ちなのにフェロモンに関してはベータと同じくらい鈍感だ。いや、フェロモンの反応値だけで言うなら無性でもいいのかもね」
「それ は」
Ωの発情期に左右されないのに、どのαよりも強いと言うことなのか? と、しずるは胡乱な目を向けた。
「オメガのフェロモンに左右されないけれど、他者に向けるフェロモンは超強力……なんて、面白いよね」
「…………」
瀬能は常々、αだから秀でているのではなくて、α因子の優性の強い弱いが大事なのだとしずるに言っていた。
それは、βでありながらαのしずるよりもはるかにαらしい大神や直江が証明している。
「……それ、ずるくないですか、チートでしょ⁉︎」
少し血の気の戻ってきた唇をつんと尖らせて、しずるは駄々っ子のように言葉を漏らす。
「オレってアルファなのにおっさんとか水谷さんとかの足元にも全然及ばなくって、もう、ホントっ悔しい!」
ぎゅうっと毛布を握る手に力が籠る。
一般的な常識として、αは支配階級、βやΩは被支配者階級と言われているせいか、どうしてもその考えが抜けないのだろうと瀬能は苦笑を漏らす。
「ちょっと元気出てきたようだね、いいことだ」
「全然よくないですよ!課題は山積みです!」
むむ……と顔をしかめる。
「強くならなきゃ雪虫を守れないじゃないですかっ」
震えていたはずなのに、力強く拳を握ってしずるはそう叫んだ。
END.
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