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落ち穂拾い的な 薔薇のフェロモン

「……で、もう一つ聞きたいことがあって……」  顔色の戻ったしずるが嫌悪感からか眉間に皺を寄せ、不愉快さを隠しもしない様子でこちらを見た。 「水谷さんの弟って名乗ってた奴の、あの薔薇の臭いのフェロモンって何ですか?」  α用抑制剤を打ったために痛みがあるのだろう足を擦り、思い出した事柄に気分が悪くなったのかぐっと唇を引き締めている。 「フェロモンに当てられたのも、抑制剤が効かなかったなんて初めてなんですけど」  そう言うのももっともだった。  以前、しずるが街で突発的な発情を起こしたΩとかち合った時に彼はΩのフェロモンに反応することはなかった。  それがどう言った理由かは分からなかったけれど、その後の実験でもしずるが番以外の発情期の匂いに引きずられることはなく……  けれど、あの場に充満していたむせ返るほどの濃密な薔薇の臭いにしずるの体は反応した。 「情報はないんだよね」 「……」 「あ、今こいつ使えねぇなって思った?」 「まぁ、九割くらい」 「素直だねぇ」  そう言うと瀬能は両手の指を合わせてぐいぐいと力を込める。 「まぁ、水谷くんのことを考えて推測だけで言うなら、彼の弟だから『理想のオメガ』って奴かもしれないね」 「えっと……ベータなのに……強いオメガフェロモンが出せるってことですか?」 「アルファ用抑制剤はオメガのフェロモンに対してのものだからね、効かないんじゃないかな?まぁ推測だけど」    むぅっと唇をとんがらせると、しずるはまた何か言いたそうだ。 「アルファやオメガならともかく、ベータの研究って意外と進んでないんだよね。どうしてもアルファとオメガの方が大変なことになるから……そっちも進めるようにって言ってるんだけど、難しいよねぇ、必要な人って少ないから」 「……」  直江のようにαに間違えられるベータは極々少数派なのだと瀬能は続ける。 「……そう言う、人もいるんですね」 「うん、特に直江くんは鼻はいいし優性は高いしで大変なんじゃないかなぁ」 「それはもうアルファでいいんじゃないです?」 「だよねぇ」  そう言うと瀬能ははは と笑う。 「でもそうもいかないんだよね。何にせよ、バース系って遅れがちなんだよね……特に医療は」 「医療……」  しずるはふと顔を上げた。 「オレ……が、医者になることもできますか?バース医になれば、オレが雪虫を診ることもできますよね?」  体の弱い番のことを思い浮かべているのか、いつもどこか弱気な雰囲気の目に力が籠っている。 「あ、ムリムリ、医者なれてもバース医にはなれないよ」 「やっだって!オレ、オメガのフェロモンが効かないじゃないですか⁉」 「だから?」 「え……」 「君の体質が、どうしてなのか、いつもそうなのか、期限はあるのか、とかとかとか……そんなあやふやなものではね」 「じゃ……あ、一つずつ確認して……」 「前例は作れないよ」  はっきりと言い切ると、しずるは体を萎ませた。  本当は理解しているのだと言う顔で、それでも縋るように瀬能を見る。 「オメガの安全を考えて、バース医は無性なんだ。それを特異な君一人のために揺るがすことはできない。オメガを診察中に医者がラットを起こすわけにはいかないんだよ」 「……」 「まぁ、雪虫は僕がしっかり診るから、それで我慢するんだね」  そう言う瀬能に、しずるはちょっと胡乱気な視線を向けた。 END.  

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