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落ち穂拾い的な 本当は……
「ふむ」
瀬能はそう短く言って背もたれに体重を預けてぶらぶらと体を揺すった。
「本当言うとさぁ、僕としては林原くんよりも水谷くんの方が興味深いわけさ」
そう言うと、傍で報告書に目を通していた大神が視線を上げる。
開きそうになって閉じられた唇を見ると、理由を問おうとしてやめたようだった。
問いかけた結果、瀬能の長話が始まるのは目に見えているからだ。
「正直、林原くんの体質は突然変異で、遺伝しないかもしれない。それよりははっきりと遺伝する強いアルファ因子を持つ水谷くんの方が魅力的なんだよね」
「……」
「君からちょっと口添えしてくれないかなぁ?」
「……無駄ですよ」
無視を決め込もうと思っていたが、どちらにせよ瀬能の言葉が止まることはなさそうだった。
しかたなしに、大神はうんざりした様子を隠しもせずに書類を置く。
「あいつはそう言うのには一切興味 と言うか、関心がないんです。大義名分を掲げたところで、イヤ と思ったら無理ですよ」
「そこをなんとか、君達付き合い長いんだろ?」
その目は、水谷と知り合いだったことを黙っていた大神に対してのちょっとしたいらつきが含まれているようだった。
「なかなか会っても貰えないし、捕まらないしで困っていたのを知ってたはずなんだけどねぇ」
「あいつは金でも釣れません、諦めた方がいいでしょう」
「ええー」
「そもそもあいつの思考がどうなっているのかは俺にもさっぱりです」
それでも昔は今よりもう少しまともで、スカートをひらひらさせるなんてことはなかった……と、大神は眉間の皺を深めて言う。
「懐に入っている人間が言えば違うでしょうが、それを俺に求めないでください」
それだけ言って、さっさと書類を取り上げる。
「つれないねぇ……じゃあ、誰か心当たりない?彼の懐の人にさ」
「……今まで、あいつが大きく動いたのは今回の林原虎太郎の時と、弟の獅子王の時だけです」
大神は諦めたように溜息を吐いて、書類をもう一度投げ出した。
「弟が族の頭やってみたいと言ったからひと月で近隣すべてまとめ上げたってやつ?」
「そうです、実際は一週間ほどですか」
大神は何かを思い出すようにして頬を撫でる。
それは無意識の行動だったけれど、かつて水谷と殴り合った時に拳を入れられた箇所だった。
「君の若い頃って言ったら……なかなか熱い時代だよねぇ」
「まぁ、流行り廃りと言うわけではないでしょうが、多い時代ではありましたね」
もうずいぶん前のことを思い出して、大神の険の強い目元が緩みかけて止まる。
「……」
「どうしたんだい?」
「いえ」
もうずいぶん前だ。
なのに記憶の中の水谷と今の水谷の差異はなくて……いや、むしろ服装のせいか若返っていると言ってもおかしくない。
いや、確実に若返っている。
「……アルファ因子には不老効果でもあるんですか?」
「なんだいそれ⁉」
思わず零してしまった言葉に対する瀬能の反応に、大神は顔をしかめたのだった。
END.
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