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この恋が不幸だと、貴方は思いますか?3

 孫のような年の彼に懸想をしているなどと言えば、先に次の世界に行った友人達は笑うだろうか?  それとも、いつも祝うばかりの立場だった私のことを多少は労ってくれるだろうか? 「桜も、もう終わりだね」  そう言うと、そこで初めて桜が寂しくなったことに気が付いたかのように、彼は大げさに思えるほどはっとした表情をして空を仰ぐ。  そうするとオレンジの髪がふわりと舞って、柔らかに光りを透けさせる。 「そうですね。すぐ、暑くなっちゃいますね」 「……そう、だね」  次の季節の話をする彼の横顔を盗み見ながら、やがて来るだろう強い日差しと熱気、それから茂る緑の桜の葉を思い浮かべた。  日差しに負けまいと深い緑の葉を一面に広げた桜の木の下で、ベンチに座る彼はきっと眩しそうに目を細めるに違いない。  暑さに鼻の頭に汗を滲ませながら、それでも嬉しそうに光に白く霞む世界を眩しそうに見て、「明日も暑そう」と言うだろう。  それを思うと、弱々しい胸の鼓動が跳ねるようだ。  この恋は不幸だと、貴方は言うだろうけれど。  弾む胸の感覚は、彼でなくては得ることができない大切なものだった。 「暑くなると、少し場所を変えた方がいいかもですね」  今はまだこうやって手を繋いでいても苦ではない気温だったけれど、それもほんのわずかの間の話だろう。  日に日に日差しは強くなっているし、私の手は体温がなかなか上がらなくてひやりとしているが、彼の指先は熱を持ったように熱い時がある。  こうして、手を繋げるのも、そう長い期間ではない。 「そう、だね」 「この辺りのことには詳しくなくて……どこかいい場所をご存じではないですか?」 「……そうだね」  できるならば連れだって様々な場所へ行ってみたかったけれど、近頃は長く座っていることすら困難で……  痛む膝に自然と手が行く。 「あっ……僕、でも……ここが好きです」  私の何も考えていない行動が彼からそんな言葉を引き出してしまったようだ。  彼は、私の体が移動に向いていないことを思い出して、自分の言葉に恥じ入るようにしている。 「いや、どこかいい場所を聞いておくよ」 「  っ、はい」  申し訳なさそうにしている彼の手を両手で握り、励ますように力を込めた。 「  ────っ お家、では……ダメですか?」    残念ながら、私の鼻ではもう彼の匂いをろくろく感じ取ることはできなくて……体の機能もほとんどが衰えて、フェロモンも感じることができないのに、彼の柔らかな香りは私の鼻腔をくすぐる。    なのに……私には勇気を振り絞った彼に応える術は持ち合わせていなかった。     

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