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この恋が不幸だと、貴方は思いますか?6

「人違いです!」  とっさに出た硬い言葉に彼は怯んだようだったが、それでも強い意志を持った表情で緩く首を振る。 「私は、又甥にあたります」  『又甥』と聞きなれない言葉を告げられて困惑の表情を浮かべたのに気付いたのか、彼は「兄弟の孫にあたります」と言い直した。  その言葉を聞いて改めて顔を見詰めれば……  わずかに面影があるような気がしてほっと息が零れる。 「ここで待っている人がいるだろうから、伝えて欲しい と」 「ちが  待ってないですっ!僕じゃないですっ!」 「いえ……聞いていた特徴が同じなので、間違いはないと思います」    やけに言い切る言葉に、返事を見失って……  力なく肩を落として吹く風に耐えるように俯く。 「『たいぎいので、もうそちらには行きません』」  風の音なのか、自分の息を飲んだ音なのかわからないまま、さっと彼に駆け寄ってその腕を掴む。  若い体は弾力のある筋肉に覆われていて、彼に老人の体のゴツゴツとした骨と皮だけの体を思い起こさせる。 「なん  ……」 「ああ、ええと……面倒なので、もうここには来ないそうです」  言葉が方言だったと気づいたのか、彼はそう言い直してから真っ直ぐな視線を向けた。   「嘘だっ!」 「もう高齢ですからね、ここに来るのもひと騒動なんですよ」 「……じゃ、じゃあ……僕が行きます! お家にお邪魔して……だから……」 「大伯父は他人を家にあげるのを嫌いますので、ご遠慮ください」 「そんっ  家、家の前でいいので!」 「孫ほど年の離れた相手と家の前で?どんな噂が立つか  」  冷ややかに見下ろされて、初夏だと言うのにひやりと体中の血の気が下がる。 「じゃあ……  せめて、彼の口から……」  暑いはずなのに指先から震えが始まる。  唇が震えて言葉がうまく紡げないままに、せめてと蜘蛛の糸に縋る思いで告げた言葉も、見下ろしてくるひやりと硬質な目に跳ね返されて風に消えた。  せめて  せめて  そう思うもそれ以上追い縋る言葉が出ず、震えるばかりの唇をぱくぱくと金魚のように動かしては首を振る。  立ってはいられず、膝を突いた地面の上にぽたぽたと雫が垂れて…… 「貴男と大伯父の出会いはただの不幸な出来事でした、忘れてしまうのがいいでしょう」 「  ────っ⁉」  突き放した言葉にきっと顔を上げる。  逆光になった彼の顔は、誰とも似ていない怪物のようだ。 「  この恋を、不幸だと?」 「……不運でもかまいません。何にせよ、意味合いは変わらないでしょう」  ざり と掌の下で砂がこすれ合って不愉快な音を立てる。  

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