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雪虫3 5

 「は?」と間抜けな声が出そうなのを寸でで堪える。 「  っ、  っ……堪忍……堪忍やで……しずる、ごめんな、ごめんな……っ」  項垂れたみなわは泣きながらそう譫言のように繰り返す。 「理由は」 「    っ」 「暇な体じゃない。次は喉に向けて振り下ろす」 「  っ……」  言いかけた言葉を飲み込み、ぐっと息を詰めたみなわはぶるぶると震えながら顔を上げ、床に転がったままのオレの方へと弱々しい視線を投げかけてきた。  どうしてオレに会いたかったのか?  どうしてオレが殴られるのが嫌なのか?  どうして……そんな目でオレを見るのか? 「し、ずる は  」  叫んだ時に傷が開いたのかみなわの唇は真っ赤で、無彩色の素っ気ないコンクリートの部屋の中で奇妙に映えて見える。 「  ──── しずるはうちの子や」  赤い雫を散らしながら告げられた言葉に、今度は堪え切れずに「は?」と間抜けな声が出た。  大神に再び蹴り飛ばされるか踏まれるかするのも構わずに飛び起きる。 「  っう、嘘ならもっとましな嘘を  っ」  そう言おうとしたのに、オレを真っ直ぐに見る目が……  紫に腫れて、充血して、決して穏やかなものではないのに、どうしてだかオレを見る目は凪いだ色を湛えている。 「  は?な、に言って   」  「大神が  保護とか大義名分つけて攫っていったん」 「攫う?」 「  っ犬や猫の子やあるまいし!産んで一度も抱かない間に盗っていったくせに!」  ひゅ と喉が鳴る。  思わず大神を振り返った。  険のある顔立ちから表情を取り去ってしまうと、もうそれだけで近寄ることすらできないほど恐ろしく見える存在だ。  けれど、真っ直ぐに見上げて…… 「しずるは あんたに誘拐された、うちの子や」  繰り返される言葉の真偽を大神に求めるのは間違っているのはわかっているのに、縋るように何かを言い出さないかと様子を窺う。 「そうか」  否定ではないその言葉がどこにかかるのか?  みなわの子?  大神が誘拐した? 「  っ」 「証拠は?まさか言われたからはいそうですかと言うわけではないだろう」 「和歌が……教えてくれた から」    あまりにも安易な返事に、オレはほっと肩の力を抜いた。  何を言われたと言うのかと、内心笑い出したいくらいだった。  遺伝子検査をしたわけでも、他に何か明確な証拠があるわけでもなし、人に言われたからオレを息子と呼ぶその姿は酷く滑稽だ。  何を馬鹿なことを言っているんだろう。  認めたくないけれど、オレの両親は大神にボコられたジジィとババァで…… 「だ って、和歌が親のフェロモンには嫌悪感を示すって……、しずるは、オメガのフェロモンを出してみても、嫌そうな顔をして……邪魔そうにして……」  オレは、ふと感じていたみなわへの訳のわからない拒絶感を思い出して、ぐっと拳を作った。    

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