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雪虫3 6

「やからっ!しずるはうちの「お前のじゃない」」  みなわの言葉を遮った大神はカツカツと音をさせながらみなわへと近づき、血と土で汚れた服を躊躇なく引き裂く。  思わず身をすくめたくなる音が止んで、顔同様の痣に覆われた細い折れそうな体が目に飛び込んでくる。  そこには、温泉で見かけた一輪の赤い花が咲いていて…… 「帝王切開の痕だね」  それまで傍観を決め込んでいた瀬能がぽつんと言葉を漏らす。  オレは、ただの手術か怪我の痕だとばかり思っていたけど…… 「……しずるを産んだ時の、や」  そう返されるとなんだか居心地が悪くて、所在無げに瀬能と大神を盗み見る。 「しずる」 「は、はい!」 「わかるか?」  ……顎をしゃくられて……そろりと恐ろしいものに近づく心持でみなわに近づく。  わかるか と大神は言ってはいたけれど、正直荒波に翻弄されている気分のオレにはなんのことだかぴんとは来ない。  縋るように瀬能に視線を遣ると、綺麗なウィンクを返されただけだった。  役に立たない と悪態を吐くこともできたけれど……この状況でそんなことをすれば、大神に蹴り飛ばされるだけじゃすまない。  フェロモンの話をしていて、大神は「お前のじゃない」と言った。  それならオレにできることはたった一つだ。  すんすんと鼻を鳴らすようにして意識して吸い込むが、みなわのフェロモンはまったく感じない。  繋がれている点滴に抑制剤でも混ぜられているのだろうか と考えたが今はそんなことは関係なかった。 「…………花、だ」  思わず薄い腹を指先で指す。  今まではどたばたで分からなかった……と言うより、みなわの匂いで邪魔されて分からなかったけれど、腹部からαの匂いがする。 「…………」  だから、どうした と顔をしかめた。  Ωがαの精液を体内に出された時、こう言うふうに臭うことがある。  強い部分を探っていけば、精液がどこに触れたのかわかるほどだ。  ……けれど、みなわは雪虫の誘拐事件を起こしてすぐに拘束されていて、何日も経っている。  大神の部下がみなわに乱暴をしたと言うことでないなら、今のみなわの体からαの臭いがするのはおかしいことだ。  考えられる可能性は…… 「傷、に、なにか   」  指していた指がびくりと跳ねる。  そんなこと……出来るものなのか? 「しずるは  鼻がええんやね? はは、ほら、やっぱりそうやん? しずるはうちの「違う」」  ひくり とみなわの引き攣ったような笑顔が凍る。 「あんたじゃない。オレが嫌悪感を持ってるのは……あんたにマーキングしたアルファにだ」 「なに、言うてるん? うちは噛まれてもないし   」  血と痣で赤黒い顔からさっと血の気が引いたように見えた。

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