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雪虫3 9
「よっと。また猿轡噛ましておいたよ」
あとから飄々とした様子で上がってきた瀬能はそう言うと、一仕事終えたとばかりにぎゅうっと腕を伸ばして体をほぐす。
「今は泣きじゃくって話にならないけど、しずる君が手当て受けて無事ってわかったら落ち着くんじゃない?」
「そうですか」
「落ち着くのを待つなんて、大神くんは甘いんだねぇ」
「あいつはようやく掴まえたブギーマンの手がかりです」
だから丁重に扱います と続いた言葉に、瀬能はにやにやとした笑いを返す。
口を挟めないオレはこっそりその様子を眺めることしかできないわけだけど……
アレかな?元カレだから情があるとかなんとか、そんなところかな って思うと、大神大好きなセキがちょっとかわいそうになってくる。
「そうなの?僕はてっきり 」
てっきり の続きは大神に睨まれて出てこない。
瀬能はこれ以上からかうのを諦めたように肩をすくめてみせるだけだった。
「 あの、あの人」
空いた間にそろりと口を挟むと、二人の怪訝な顔がオレを見る。
「あの人って、この後どうなる ん、です、か 」
勢いで尋ねかけたものの、そんなのわざわざ聞くまでもなくて……
だけど、オレの身をあれだけ心配してくれた人間を、はいそうですかで知らんぷりすることもできない。
「聞いてどうする?」
「あ……や……どうも、できないんだけど……ちょっと、気になることも言ってたし」
「お前の親だと言うやつか?」
返された答えに無言のまま頷く。
大神が笑い飛ばしてくれるのを期待していたのかもしれないけれど、残念ながら返されたのはむっと唇を引き結んだ表情だ。
思わず瀬能の方に視線を遣るも、こちらもはっきりとした表情じゃない。
「あの オレの親は、ジジィとババァで……」
「しずる君、君のご両親のバース性は?」
「……」
瀬能の言いたいことはわかる。
αは、両親のどちらかがαじゃないと産まれない。
「……」
オレが大神に連れて行かれるまでβで通すことができたのはそのお陰だ。
「……」
二人から逸らした視線ですべてはバレている。
オレが、ずっと気にしないようにしてきた事柄だ。
「…………」
「もう、わざわざ言う必要はないね」
「じゃあ、あの人は 」
大神に引きずられて登ってきた階段を見て、その下で椅子に拘束されたみなわを思う。
ぼろぼろの体で、オレの名を呼び続けていた人が……
「オレの親なんか?」
「知らん」
ばっさりと切り捨てるかのような言葉に思わずひくりと肩が跳ねる。
「なっ 」
「そう思いたければそれでいいだろう」
「そ、そんな簡単なもんじゃないだろっ!」
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