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雪虫3 11

「誰と誰の?」 「っ……オレと、ジジィ、の……」  その往生際の悪さに笑われるかとぎゅっとカップを握り締める。    オレとジジィが親子じゃないってだけだったら、ババァがαと浮気したって思えば…… 「……」 「まぁ、できるけれどもね」 「……」 「大神くんの言葉じゃないけど、それで今の君が変わるわけじゃない」  そんなこと、わかってる。  実は親子じゃありませんでしたって言われて、あのジジィたちからされたことが消えるわけでもなし、記憶が変わるわけでもない。  はいそうですか と切り捨てるには……  でも、もしジジィたちがこのことを知っていたとしたら?  急に家庭が荒れ始めた理由が、悪い奴らとつるみ出したからじゃないとしたら?  自分の子だと信じていたオレが、他人だとわかったからだとしたら? 「だとしても、そしたら……あの人たちの幸せを壊したのはオレになるなって」    疑いもなくオレを育てていたんだから、ジジィたちの本当の子供がいるはずで……   「なんだかんだ仕送りしてくれるできた息子を持って、ご両親は幸せだと思うけどね」 「  っ」  何で知ってんだ と睨んでみるも、まぁ誰が漏らしたかは見当が付く。  大神と研究所からの給料はオレには不相応だと思えるほどで、本当なら雪虫との将来に向けて貯蓄に回すべきなんだろうけど、やっぱり……どうしても二人のことが気にかかって……  弁償に回してくれって毎月少額だけど送っている。 「普通は縁が切れたって思ってせいせいするもんだけどね」 「そうなんだけど、やっぱり……いい親だった時もあるから  」 「記憶がいいのも考えものだね」  瀬能がそう言うってことは、周りから見たらよほど酷い親なんだろう。 「でも、そのお陰で雪虫に色んな話をしてやれるから」  体が弱くて、しかもあんな事件を起こしてまで誘拐しようとする輩がいる外へ、雪虫は出て行けないから。 「そうそう、雪虫のことだけどね」 「?」  声が少し改まったのを感じて、はっと姿勢を正す。 「なにっ⁉また何かあった⁉」 「食いつきいいねぇ、さっきまでしょげてたのに」 「だっ  だって、オレのことよりも雪虫のことだろ⁉」  瀬能は吹き出すのを堪える素振りを見せながら、いやいやと手を振る。 「君の様子がおかしいって心配してたよ」 「!」  ぱぁっと、胸に温かいものが満ちる気がして、思わずへらりと顔が緩んだ。  雪虫には心配かけたくなくて普段通りに接していたはずなのに、それを見抜かれたってことはそれだけ雪虫もオレのことを見てくれている証拠だ。  

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