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雪虫3 14

 だからって、雪虫に対して丁寧に接してくれるから、オレとしては対立する理由もないわけで。  オレが大神の手伝いをするのを良しと思ってないのは、どうやら『危ないから』みたいだし。  でも、オレは……雪虫が何の心配もなく暮らせるようにしたいんだ。 「いっぱい働いて、雪虫のこと幸せにするからっ」 「……雪虫は、しずるがいてくれないとしあわせになれない」 「~~~~っ!」    ぷっくりと膨れたままの頬に頬ずりしながらぎゅうぎゅうに抱き締めたい衝動に駆られたけれど、そんなことをしたら雪虫の体がどうなるか……  行き場のない手でもう一度ショールを直してから、雪虫の部屋を出る。  扉を閉じても、どうしてだかそこに雪虫がいることがわかるから、一二歩進んでは振り返ってしまう。 「しずる!」 「っ!」  噂をすれば……なのか、呼ばれて振り返るとうたがいる。  長い長い、面倒じゃないのかってくらい長い黒髪と、Ωらしい顔立ちのうたに、思わずぎゅっと眉間に皺が寄った。 「ちょっと、どうして苦虫をかみつぶしたような顔をするのよ」 「や、だって。遅いから迎えに来たんだろ?」 「当たり前でしょ?瀬能先生を待たせるなんて」 「ほら、小言言われるし……」  そう言うとぎろりと睨まれる。 「時間を守ってたら言わないわよ」 「だって  」  雪虫が……って言いたかったけど、雪虫を遅刻の理由にしたくないからぐっと言葉を飲み込む。  そんなオレの気配がわかったのか、うたは軽く片眉を上げてみせてから「急いでね」って背中を押してくる。   「や、でも、ちょ、その」  そこにまだ雪虫の気配があるから立ち去り難くて……でもうたに睨まれてすごすごと歩き出す。  真っ白な壁に変わり映えのない扉、それから汚れ一つない窓と、相変わらずこの研究所は迷いやすい作りをしている。  昨日は通れなかった道が通れるようになっていたので進むと、思いの外早く玄関へと着くことができた。 「ああ、来たね。うたくんには会った?」 「……はい」 「彼女怖いから、怒らせないでよ?」  人をからかうよう表情につい睨み返す。 「こらこら、君もうたくんもすぐ目で語ろうとする。良くないよ?」 「そ、そんなことしてませんよ」 「目は口ほどにって言うだろう?しずるくんもうたくんも考えが筒抜けなんだよねぇ」  それは、子供だと言いたいのか、単純だと言いたいのか……さっき言われたばかりなのについむっとして睨み返した。  きっとこう言うところが瀬能にからかわれる原因だとは思うんだけど、急には治しようがない。

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