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雪虫3 15
願わくば、早く雪虫を守れるくらいの大人になりたいものだけど。
「いやいや、背伸びをしようとする若者は可愛いねぇ」
……それは当分先みたいだ。
車に乗せられて再び目隠しをされて……
「あの、これって、取ったら駄目なもんなんですか?」
「うん?ああ、止めといた方が良いよ~」
オレの隣に座っている瀬能が呑気に返事をする。
「どうしたの?退屈かい?んじゃあしりとりでもしようか?」
「いや、いいです」
「えぇ……つれないねぇ、近頃の子は皆そうなのかな?」
声だけでしょんぼりとしているのがわかる声に、思わず「そう言うわけじゃないと思うんだけど」と言い訳がましいことを言う。
最近の子にどれだけオレが添えているかはわからないけれど、それでもこの年で瀬能としりとりをしようと言われて喜んで飛びつくと言うのはあんまりないんじゃないかな?
「息子も反抗期なのかつれなくて……はぁ」
珍しい言葉に、思わず食いつく。
「そう言うもんじゃないんですか?」
「うん?反抗期?」
「無いのは無いでダメっ聞いたことが」
「なくていいよ、なくて。はぁ、寂しいねぇ」
しみじみ言う瀬能に、実はあんまり興味がなかったけど暇つぶしと思って問いかけてみる。
「お子さんはまだ小さいんです?」
「うん?下の子はね、まだ高校だから。上の二人はもう働いてるよ、早いよねぇ、おむつ換えてたって言うのにもう一端の医者だって」
穏やかに、ふふ と笑う声だけを聴いていると子煩悩な父親のように思えるけれど、気にかける割には瀬能が研究やらなんやらと言って研究所に入り浸っているのを知っているオレは複雑な気分だ。
そう思うならもう少し親子間での関わりを持ったらいいのに と思うのは、まだオレが子供の立場だからだろうか?
子供がいたらどう感じるだろうかと想像もしてみたけれど、どうしてもそれは思い浮かばなかった。
「しずるっ!」
甲高い悲鳴のような声で名前を呼ばれて思わず立ち竦んでしまう。
研究所でうたに呼ばれた時のことを思い出しながら、階段から一歩二歩と近づくとオレの方へさっと視線が移る。
痛々しい見た目は昨日のままだ。
殴られた痕と、血の塊と……
それに、オレをひたむきに見る瞳と。
「……」
何と答えていいのかわからずに、ちらりと瀬能へ助けて欲しいと視線を送る。
「ほら、しずるくんは無事だろう?」
「しずる!怪我は⁉あんなに血ぃ出てたん、もう大丈夫なんか⁉」
「あ 」
あれは、芝居で血糊を仕込んでたんだって……言い出せなくて、曖昧に頷いてみせた。
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