495 / 714
雪虫3 19
オレがその気持ち悪さと戦っている間、瀬能は淡々と質問を繰り返している。
取り留めもない質問もあれば、みなわ自身にずいぶんと踏み入った質問もあったし、仙内に関するものもあった。
向かい合う二人を眺めていると、自分一人が違う世界に放り込まれてしまったような気分だ。
「……しずる?どないしたん?具合良くないんか?」
「あっ……いや……」
息を潜めるようにしてじっとしていたからか、調子が悪いのかと思われたらしい。
慌てて首を振るも、みなわは瀬能に診察してくれと詰め寄るところだった。
「さっき先生が首絞めたからやろっ!はよ診て!」
「あれくらい平気だよ。彼はアルファだしそれくらいでどうにかなるほどヤワじゃないよ」
「昨日やって血ぃやって吐いてたやんっ!なんで大人しくさせとかんのっ!入院させやないかんやろっ」
矢継ぎ早にそう叫び、縛りつけられた椅子をガタガタと鳴らす。
「アオタンもできとるしっ先生ヤブちゃうんか!」
「いやいや、昨日の今日で治せたら詐欺だよ」
喚き始めたみなわに溜息を一つつき、瀬能は大儀そうに立ち上がってオレの腕を取る。
「なに、何するんや⁉なんでしずるを連れて行くんや!」
「んーどうしようかな?」
「っ⁉ヤブ言うたん怒ってるんか⁉」
「図星さされたからって怒るほど若くないんだけれどね?」
はは と笑いを漏らした瀬能はオレを引っ張り上げると、引きずるように地上への階段へと向かう。
「待っ やめっ連れて行かんといてっしずるを ────っ」
促されて階段を上ったために途中からみなわの叫び声は何を言っているのか分からなかった。
けれど、オレの心配をしている言葉を叫んでいるんだろうなってことだけはわかって……
重い扉が降ろされて、その隙間が閉じきる瞬間までみなわの叫び声は聞こえていた。
「……」
「今日は疲れたろうから、夕飯でもどうだい?」
先ほどまで血まみれで椅子に縛られた人間と対峙していたとは思えない軽さで言うと、瀬能は頭を下げる黒服たちに手を上げてさっさと出て行ってしまう。
倉庫の中は地下よりもずいぶんと薄暗くされていて……
なんだかその落差に眩暈がしそうだった。
倉庫で感じたような眩暈を再び覚えて、真っ白なテーブルクロスに並べられた豪奢な皿に目を白黒とさせると、向かいに座った瀬能が「お箸貰おうか?」と声をかけてくる。
「や……使えるけど……」
大神からの命令で、テーブルマナーを覚えるようにと言われてざっくりだけれど直江から指導は受けていた。
でもそれと実際の店で食事するのは別の話だ。
ともだちにシェアしよう!