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雪虫3 22

 オレだって、友人の必要性はわかるし、雪虫が孤立すればいいとは思わない。  でも、こうやって雪虫がオレ以外の人間と親しくしているのを見てしまうと、もやもやとしたものが込み上げてきてしまう。  雪虫にはオレだけを見て、オレだけを頼って、オレだけに話しかけて欲しい……なんて……  我儘だとは分かっていても思ってしまう。 「だいぶ参ってるな……」  コツン と柱に頭を打ち付けるも、それでこの憂鬱感が軽減されるわけじゃない。 「……先に、瀬能先生のとこに顔出すか」  昨日の何を食べたかわからない夕飯時のことを考えると、顔を合わせたくなかったけれど瀬能は雇い主で、「顔を出してね」と言われてしまうとオレにはどうしようもない。    今日も、みなわに会いに行かなくてはいけないんだろうか?  あと何回会いに行ったら、終わるのか?  終わったら……? 「…………コンクリートに詰めて、沈める とか」  そう言う話は、聞いたことがある。   「なんだい?沈めて欲しいのかい?」 「ひっ!」  思わず飛び上がってしまって、よたよたと壁へと張りつく。 「せ、瀬能先生っ⁉」 「おはよう。君にそんな趣味があるとは知らなかったけど、まぁ人の性癖はそれぞれだからねぇ、構わないよ。注文しとこうか?」 「え、遠慮します……」 「そう?ついでだよ?」 「つい ついでって……」  何に使うついでなのかを考えて、すっと指先が冷たくなる気がする。  それは、近い内に必要になると……?  青い顔をしている自覚があるオレに、瀬能はやっぱりなんてことないようににこにこと胡散臭い笑顔を向けてくる。   「お茶を頼める?」 「あ、はいっ……あっ」  視線を遣った先、瀬能の後ろにいる人物に慌てて頭を下げた。  お客さんがいる前でずいぶんと挙動不審な態度をとってしまったと、深く頭を下げながら反省する。 「御厨さん、こちらに」 「……はい」  小さな返事は今にも消え入りそうだ。  廊下の端に寄ってそろりと御厨と呼ばれた人物を覗き見る。    ほっそりとした全体的な体つきと、花を思わせるような顔立ちを見ればΩだってわかるけれど、オレにはなんの匂いも感じ取れないから番持ちなんだろう。    そして、オレよりも青い顔をしている。  どう言う客なのかを尋ねようとしたけれど、瀬能の胡散臭い笑顔が振りむいて手を突き出されてしまう。   「じゃあ、お茶頼んだよ」 「は い」  目の前でぱたんとドアを閉じられてしまうと、そこを開けてまで「誰なんですか?」なんて聞けなくて……  しかたなく食堂の方へと引き返す。   

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