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雪虫3 25
あれは、一方的にαが宣言してΩから離れると言うものだ。
項を噛むような行動が伴うわけでも書類があるわけでもなく、ただ理不尽にαが告げるだけ。
そしてαから拒絶されたΩは、孤立感や寂寥感、求められないのだと言う苦しさの中で衰弱して行く。
「ははは、わかってるよ。今回のはオメガから番契約をなかったことにする実験だよ」
「……」
できるかどうかの話なのに、解消されると聞くと落ち着かなくなるのはオレが雪虫と番ったばっかりだし、何より雪虫に捨てられたくないからだ。
雪虫に「嫌い」や「別れたい」なんて言われた日には、本当にショックで倒れてしまうかもしれない。
「君はさ、番契約ってなんだと思う?」
「え?ええと、アルファとオメガの間にある絆で、この二種のバース性の間でのみ交わされる特別な 」
「だから、それって何?」
ほぼ丸っと暗記の言葉は瀬能の求めているそれではなかったようだ。
まぁ確かに、そんな答えなら瀬能がオレに聞くはずもない。瀬能が聞きたいのはそう言うことではなくて、もっと違った答えなんだろう。
「…………あ、愛情表現?」
「それならもっといいものがない?一時的とは言え相手に怪我を負わせて、しかもそれは相手を死に至らしめるかもしれない」
「 こう、そく、ですか。執着?所有欲?独占……固執 ……離れられない、呪い、とか」
言葉を連ねて行くうちに出た言葉だったけれど、あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑おうとしたところを瀬能の言葉に遮られた。
「そうだよねぇ」
そう呟くと瀬能は指先をぐにぐにと押し付け合いながら天井を仰ぐ。
あまりにも背もたれに体を預けすぎるから、いつかひっくり返りやしないかと心配になるから声をかける時もあるのだけれど、瀬能のこの癖は治りそうになかった。
「じゃあ、番になれるシステムはなんだろう?」
システム?と口の中で繰り返して、Ωの発情期の際に性交してその最中にαがΩの項を噛んで歯型を残す……では駄目なのはなんとなくわかる。
「どうして項なんだ?どうして歯なんだ?どうして噛み痕が残る?どうしてΩのフェロモンが番だけに効くようになる?」
「あ、え、えと」
矢継ぎ早に告げられる言葉は、すべて「昔からそうだった」としか返すことができない。
本能的なものなのだと思っていたけれど……
「先生は、どうしてだと思うんですか⁉」
ぶつぶつと自分の世界に入り出した瀬能にそう問いかけると、はっとオレの方を向いてぱちくりと目を瞬かせる。
まるでここに居るのに気づかなかったよ とでも言いたげな態度にむっと唇を曲げた。
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