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雪虫3 27

「項、ですか?でもあれって、その……は、入ってる最中って噛めるところ決まってくるじゃないですか。喉笛に噛みつくわけにもいかないですし……」 「オメガのフェロモンは項から一番多く出てるんだよ」  そう言われて、確かに雪虫の項からはとてもいい匂いがしていたことを思い出す。  甘いのに、すっきりとしている冬の花の匂い……  首筋に顔を埋めて思いっきり吸い込みたくなってしまって、我慢するために自分の手をぎゅっと握った。 「オメガがアルファから番契約を切られて衰弱して行くのは、アルファのフェロモンに中毒性があるから とか」 「中毒……って、そんなこと言われたらオレは歩く毒物じゃないですか」 「はは」  簡単に笑ってくれるけれど、オレ自身が雪虫の体を蝕む原因になっていたなんてなったら、生きている価値を見出せなくなりそうだ。 「どうなんだろうね。だから、番契約を切られて距離を置かれたオメガは禁断症状で衰弱して行く」 「オメガがアルファを思うのは、恋心じゃなくて中毒だから とか言い出さないで下さいよ」 「どうだろうねぇ」 「……」  そう言って胡散臭い笑みをこちらに向けてくる。 「まぁ、だからアルファから距離を取られたオメガはフェロモンの中にある中毒性のある物質を得られず、精神的に追い詰められて衰弱して行く とか」  「とか」ばかりなのは気にかかったけれど、こうしてオレに話をすると言うことは瀬能からしたらそう思う様々なことがあったんだろう。 「そん、そんな えげつない話、嫌なんですけど」 「ははは、じゃあ、魂の絆だから で終わらした方が良かったかな?」 「……そう言うわけじゃ……そうしないと、番契約を破棄されたオメガが救われないことになるじゃないですか」 「うん、そうだね」  瀬能が体を揺するから、限界まで撓った椅子がギシギシと嫌な音を立てている。  でも、それでも瀬能はその行動をやめる気はないようだ。 「運命の番のからくりも、結局は遺伝子の相性だってわかっているんだし、番契約もきちんと説明のできることのはずだよ」 「……そうなんでしょうけど、でも  」  この世の全てが科学で説明がつくのだとしても、それでもオレは雪虫と出会ったことや、惹かれたことをそんな四角四面な硬い言葉で決めつけてしまいたくはなかった。  遺伝子だとか、相性だとか、そんなことを飛び越えて……オレは雪虫のことが愛おしいと思う。  それが、まるで機械のようにプログラムされたことだと言われるのは嫌だ。 「  とまぁ、そう思ってたんだけどさ」  そう瀬能は軽く続ける。

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