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雪虫3 28
「は?」
「なんかさぁ……みなわくんを見てたら、ちょっと違うのかなって……話を聞いていて仙内の話になった時だけ興奮状態が見られた……どうして?確かに彼と運命の相手だと言ってはいたけれど、あの状況で問いかけられてあの興奮状態と言うのは腑に落ちないよね」
ぎっ!と派手な音を立てて、瀬能は前傾姿勢になる。
その目はオレを見ていなくて、また自分の思考の中に入って行ってしまっているようだった。
「彼の腹部……見てみたいなぁ……」
ぽつん と呟かれた言葉は聞かせる気がなかったのかもしれない。
ただ瀬能の目がこちらを見ないことにほっとするオレがいた。
はぁー……と息を吐き出して勢いよくベッドに腰掛けると、隣に座っていた雪虫がそのはずみでぽよんと弾き飛ばされる。
「わっごめっ 」
幸いベッドの上に転がっただけだけど、落ちたら怪我をしていたかもしれない。
誘拐事件の後の熱が思いの外、早く引いてくれたんだからこれ以上寝込むような原因は作りたくなかった。
「だいじょうぶ」
そう言うとベッドの上に座り直して、オレを見上げて微笑んでくれる。
「しずる、お疲れ?」
「んー?全然」
そう返してはみるけれど、瀬能が呟いた不穏な言葉が脳裏にこびりついて離れないのも事実だ。
「見てみたい」の言葉は、腹の傷のことで間違いないだろう。しかもそれをただ見たいと言うわけでないのは、雰囲気で分かる。
瀬能はその傷の奥、腹の中のことを言っているに違いない。
オレと大神が言ったみなわの体の中から感じるあの仙内とか言う男の気配……
そこに何かあるのは違いない。
αの臭いをつけたり、えっちしてナカにマーキングされたりすることはある。
特にナカで出したりすると効果てきめんで、このΩが誰のものなのか宣言して回っているようなものだ。
オレのようにはっきり誰かとわからなくとも、αならそのΩに特別なαがいるんだって感じ取って尻込みさせる効果はある。
それに近いことが、できるナニかがある……気がする。
「気がするんだけどなぁ」
そんなことできるのかさっぱりだ。
瀬能ならもう少し違う意見を出してくれるかもしれないけれど、完全にみなわをモルモットを見る目で見ているから、あまり突っ込んで話をしたくはなかった。
人を、人として扱うことがない……
オレが進もうとしている道が、そんな甘いことを言ってられないような世界だってわかってはいるけれど……
「しずる?」
「うん?ごめんね、なんでもない」
それを当然だからとして受け入れてしまうと、直向きにオレを見てくれる雪虫を悲しませることになるんじゃないかと思ってしまう。
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