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雪虫3 33

「あ?え⁉雪虫!怪我したのか⁉」 「ちがうよ!」  そう叫ぶと雪虫はさっと小さな手でオレの鼻を押さえてくる。 「⁉」 「しずる……どうしたの?具合悪い?」 「え⁉あ!鼻血?」  オレの赤い血が雪虫の腕を伝い汚すのを見て、慌ててティッシュ箱を引き寄せてその血を拭う。 「わっ雪虫!汚れるから離れて!」 「や、やだっしずる?しずる?どうしたの?なに?」  顔を青くした雪虫は、汚したくないって言うオレの思いとは裏腹にぐいぐいと近寄って鼻血をなんとかしようとする。 「やだっしずるっせのう呼んでくる!まってて!」 「ちがっ大丈夫っ大丈夫だから!」 「だってっだって」  大神に殴られて鼻血を出したばっかりだから、きっと出やすくなっていたんだろう。   「これは大丈夫なヤツだから」 「  っ」    そうは言っても雪虫はほっとしている様子はない。  青い顔に苦笑を返しながら、やってしまったと項垂れる。 「これは……その雪虫が好きすぎて、出ちゃっただけだから」 「?」 「その、凄く雪虫のことが好きで、好きすぎて頭ん中がいっぱいになって、すごく興奮して……それで出ちゃっただけなんだ」  こんなオレの説明で分かってくれるか不安だったけれど、雪虫は困ったような表情でこくりと頷く。 「ごめん、汚しちゃったね」  タオルを濡らして戻り、オレの鼻血を止めようとしていた雪虫の手を丁寧に拭い、乱れていた雪虫の服を整える。 「……もう、終わり?」  きゅう と胸が締め付けられる感覚がしたけれど、まだ鼻血は止まりきっていないし、続きをしてしまうとまた血を吹き出してしまいそうだ。 「鼻血がちゃんと止まったら ね」 「……」  むぅっと頬が膨らんで、拗ねていると言う表情だけれど渋々と首を縦に振った。 「その代わり少しゆっくりしようか」  腕を広げると小さな体が飛び込んでくるから、一緒にクッションへと倒れ込む。  中のビーズが微かに音を立てて体を包み込んだ。 「ごめんな?オレって不甲斐ないなぁ」 「ふが……?」 「なさけないなって」  せっかく雪虫が触れさせてくれたと言うのにそれをふいにしてしまって…… 「そんなことないよ!しずるはかっこよくて、やさしくて、すてきで、男らしくて、かっこよくて  」  同じ言葉が出た瞬間、雪虫は「あれ?」と首を傾げて混乱したような顔を作る。  もともと雪虫の語彙はあんまり多くないから、しょうがないちゃしょうがない話なんだけれど、なんだかそれが可愛らしくてぷっと噴き出した。 「ふふ、ありがとう」 「しずるは、じまんの雪虫のアルファだよ!」 「っ!」  雪虫のα……と言葉にされて、心臓がどきりと鳴る。  

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