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雪虫3 34
オレがそう思っていたように、雪虫もオレを自分のαだって思ってくれていたのが嬉しくて、ぎゅっと雪虫を抱き締める。
甘い雪虫の匂いを堪能するようにすんすんと鼻を鳴らすと、雪虫も同じようにまねをして鼻を鳴らす。
「しずるの匂いがする!」
「ん、オレも雪虫の匂いがする」
とは言え、オレの匂いだけを感じる雪虫とは違って、オレは雪虫の匂いだけでなくて他のΩとβの匂いを感じ取っている。
セキの匂いが一番きつくて……それから、微かにうたの香りもした。
体質なのかうたの匂いは薄くて、オレでも感じ取れない時があるくらいだ。
そんな匂いが移るほどなのだから、随分と一緒にいたんだろう。
「今日、楽しかった?」
「うん!」
明るく返されて……でもオレとしてはちょっと複雑だ。
αの臭いじゃないだけましだけれど、オレ以外の匂いがついているって言うのは、αとしては面白くない。
雪虫を閉じ込めてオレだけのものにしたいって思うけど、実行したらまずいのはよく理解している。
でも、理解したうえで、こうやって移り香を嗅ぐと閉じ込めて、オレだけの匂いで満たしたくなる。
じりじりと灼けるような、ちょっとした嫉妬 なんだと思う。
「そっか、よかった。体は辛くなかった?」
「うん、なんだか、ほわっって」
「ほわ?」
その表現がどう言うことかはわからなかったけれど、それでも今までのことを思うと調子はいいようだ。
いつもなら、もっと長く寝込んでしまって、熱が下がっていたとしても部屋から出ることもできなかっただろう。
これが番になった効果なのかはわからないけれど、オレと繋がったことによって雪虫の調子が上向いているのは間違いなさそうだ。
「今なら、大神もたおせそう!」
「え⁉ええ⁉」
ふふふ と悪戯っぽく笑われて、それが冗談だって気が付いた。
一緒にクスクスと笑いながら、銀色に近い髪を指で梳いていく。
「雪虫がまもるからね」
オレの指の感触にうっとりとしながら、雪虫はそう言って笑った。
「え⁉」
思わず声を上げたオレを、うるさいモノでも見るように見て大神は立ち上がる。
「そう言う話だっただろう」
「あ、え、えっと、でも、……オレ、雪虫と 」
「雪虫はセキが見ている」
「あ、う、じゃ、あ、ごちになりまーす……」
相手が大神でなければ、もっと嬉しかったかもしれないけど……
確かにレバー食わしてやるって言われたけどさ、ただの冗談だと思ってたんだよ……
「食え」
「あ……はい」
ジュウ と音を立てて焼かれる肉を眺めながら、もそもそと肉を口に運んだ。
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