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雪虫3 35

 きっといい肉なんだろうけど、向かいに大神を見ながらじゃ味なんてわかんない。  あ、いや、嘘、うまいもんはうまいや。 「いやぁ、美味しいねぇ」  そう言いつつ、瀬能は肉を一枚食べたきりだ。  もっと食べないのかと様子を窺うと、苦笑してひらひらと手を振られる。 「たくさん食べられるのは若い内だけだよ?」 「そう言うもんです?」  噛む必要がないんじゃってくらい柔らかいこの肉とか、するすると食べられそうなものだけど? 「野菜も焼けました」 「じゃあ僕が頂こうかな」  甲斐甲斐しく肉を焼き続ける直江がそれぞれの皿に肉や野菜を置いていく。  オレの皿にどんどん積み上げられて行くから、慌てて片っ端から胃に詰め込む。 「こうやってわいわい食べるのもいいねぇ、近頃片手間に済ましてしまうことが多くて……ダメだね、人間らしさを持たないと」 「は、はぁ?」  オレに言われても、そう言うもんか?くらいしか感想を言えないのだけれど……  それに、わいわいと言ってはいるけれど、向かいに座った大神はむっつりと押し黙ったままで、そう言う雰囲気とは程遠いしとにかく気まずい。    どうせ食べる肉なら和やかに食べたかったよ。  こんな高級そうな焼き肉屋?なんてオレじゃ来れないだろうし……それに、来るなら雪虫と来たい!  けど、肉を食べない雪虫には向かない場所だし。  第一に……研究所から連れ出すこと自体が無理だ。  あんな大掛かりなことをしてまで攫おうとしてきたヤツ相手に、オレ一人でどうにかできるわけもない。  ……外を、見せてやりたいって思うのにできない事実が、自分の不甲斐なさを突きつけてくる。 「みなわから聞き出すことはすべて聞いた」  聞こえた言葉にはっとすると、テーブルを挟んだ向こうの大神がひたりとこちらを見据えていた。  肉食の獣を思わせるような鋭い目に、箸を下ろして項垂れる。 「それ、は」  どうなるんですか?は以前に瀬能に尋ねた言葉だ。  あの時、瀬能ははっきりと言葉にはしなかったけれど、医者の自分にしかできないことがあるのだと言っていた。 「聞きたいことがあるのなら今日のうちに聞いておくといい」  今後、聞けなくなる と、言うことだ。  それが意味することが分からないなんて言うほど平和ボケした考えはしていない。 「…………」    大神が何を思ってオレにそんなことを告げたのかは理解できないけれど、こうしてそのことを教えるために場を設けてくれたのは……たぶん、優しさだ。  オレとみなわとの関係をはっきりとさせることも、  みなわの中にあるナニかにどうして嫌悪感を感じるのかも、  はっきりさせるならば……  

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