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雪虫3 40
なんたってこの人のお陰でオレはぼこぼこになってるんだから。
「にしても痛そうだねぇ」
「見た目よりは全然痛くないですよ」
きっと水谷との特訓のお陰で感覚がマヒしてるんだと思うんだけど。
実際、顔を見た人はぎょっとして目を逸らしてしまう。
雪虫に至ってはオレを見た途端泣き出してしまったんだから……瀬能許すまじ。
「いやぁ献身的だねぇ」
「そう言うんじゃないですって」
「ふーん?どうする?一応親子検査してあげようか?」
「なんでですかっ」
「アルファは何人でも番を持てるよー?」
それは良く聞く話だったが、オレには何人も愛する人を持つことができる人間を理解できなかった。
少なくともオレは雪虫を愛するだけで精いっぱいで、他に余力を持てるような愛し方はできない。
「ははは」
「オレはただ……目覚めが悪いから……ってだけしたことですから、他に意図なんてありませんってば」
「君も大神くんもオメガには甘いよねぇ」
はは と笑いながら背もたれに体重を預けるから、椅子がギシギシと大袈裟なほどの音を立てた。
「別に……死なれるよりはいいってだけで、そんな大層な話じゃないですよ。ただ……」
こちらを向いた瀬能の視線から逃げるように床を見詰める。
「自分が酷く悪い人間に思えて仕方ないです」
「ははは!若いねぇ」
結局オレがしたことは、オレを人質にみなわをこちら側につかせると言うことだ。
みなわは退院次第この研究所で軟禁されることになっている。
……それは、瀬能の言う倫理に背く実験のためではあるけれど、仙内と再びコンタクトを取らないように、仙内に口封じされないようにとの配慮でもあって……
オレを自分の子供と信じ込んでいるみなわの情に訴えるこの作戦が、唯一提示されたみなわの命を救うものだったのだけれど、それでも人を騙してその心にずけずけと入って行くようなやり方は好きにはなれなかった。
みなわを父と呼んだ違和感に未だに苦しめられている程度には、オレにだって良心はある。
「ふーん……あ、コレ、シュレッダーにかけておいてくれる?」
「あ?はい」
ひらひらと振られる手紙を受け取ると、オレじゃ読めない横字の言葉がびっしりと書かれている。
読めそうで読めない字は英語ではないんだろうってことはわかったけれど……
「あの、すごく立派な手紙ですけどいいんですか?」
「ああ、うん」
触っただけで質の違いの分かる紙に、箔押しで随分と豪華な模様が描かれている。
まだ机の上に置かれたままになっている封筒も、オレが今までで目にしたことがないほどの高級感が見て取れた。
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