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雪虫3 44

「息子巻き込まずに父さん達二人だけで話してくれよ!」  矢継ぎ早にそう言って、何か言われる前に病室を飛び出した。  背後から名前を呼ばれたけれど……あとは二人でなんとかしてもらうしかない。  オレに出来ることと言ったら御厨の誤解を解くことと、二人で話し合う機会を設けるくらいだ。  この病院に入れたってことは、身元のはっきりとした人だろうし。  たぶん、ヤバいことは起きないだろうし、何とかなるだろう……たぶん。 「……身体チェックもされるし、刺されたり……しないよなぁ」  そう考えてしまうのは短絡的だってわかってはいるけれど、そう言う思考になるような出来事しか起こってないんだからしょうがない。  とは言えもうこれ以上、オレはどうしようもないんだし成り行きに任せてとっとと雪虫のところに向かうぞ! 「…………」  相変わらず、研究所内にあるこの病棟は独特な雰囲気だと思う。  入り口の厳重なチェックもそうだけれど、廊下ですれ違う人がいない。  極々たまに看護師とすれ違うことはあるけどそれくらいで、それ以外はひっそりと静まり返ってまるで入院患者がいないかのような雰囲気だ。  でも時折扉のむこうから聞こえる気配があるから、入院患者がいないわけじゃないと思う。  それから……病室のナンバープレートの下にある名札。  決して名前は書かれていなくて、代わりにシールが貼られているだけだ。  みなわがシャボン玉だったように、花のシールだったり動物のシールだったり……明らかに普通の病棟とは言い難い。 「んー……大神さんみたいな人が使うからかな」  瀬能にヤのつく職業じゃないって言われたから言葉には出さないけどさ。 「  ──── おおがみ?」  思わずぴっと背筋が伸びた。  周りに人なんていないと思ってたのに……  さっと辺りを見回すと、引き戸にはめ込まれたすりガラスの向こうに人影がふらふらと揺れている。  何も聞かなかったように立ち去るべきかどうか迷っている内に、影はドンドン近づいてきて軽い音を立てて戸が開いた。 「大神て聞こえたんやけど?」  ちょっととぼけたようなおっとりとした聞き方で尋ねられ、曖昧に頷き返す。  オレの顔を見上げてから、不思議そうに首を傾げるから長い黒髪が肩から落ちてさらさらと音を立てて……   「組の知り合いなんか?若衆には見えんけど……」  組 と言われて、いろんな組が脳裏に浮かんだけれど最終的に「瀬能先生の嘘つき!やっぱヤクザじゃないか!」って言葉だけが残る。 「オレは……知り合いで……」  オレと大神の関係を考えると、それが一番だろう。

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