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雪虫3 45

 友人 なんて気安い立場ではないし、上司と部下……と言うには雇用契約は瀬能としているから関係ないし、狩人と獲物なんて言葉も浮かんだけれど、うん、ただの知り合いがいい。  それにこの人の言う大神がオレの知ってる大神かもわからないし…… 「そうですか。大神は忙しゅうしとんやろか?」 「え?あ……すみません。詳しくはわからないです……」  ちらと病室のネームプレートを見るとピンク色の桜のシールが貼られている。  けれどそれ以上の情報はなくて…… 「……」 「じゃあ、失礼します」  オレの言葉を聞いてぽかんと言うか、ぼんやりとしてしまった彼女から距離を取るように後ずさった。  ふんわりとした肩掛けを羽織っていてもなお細いと分かる体に、顔立ちは窶れを見せるけれども綺麗な作りだ。  雰囲気自体が儚げで……  幽霊とかじゃないよな?って、思わず目を擦る。 「    さとくんは  」  細い体が傾いで病室から小さな足が廊下を踏んだ瞬間、人の気配なんてなかった廊下から看護師が駆け寄ってきてオレと彼女の間に滑り込む。 「どうされましたか?」  優し気な口調だけれど、彼女を病室へ戻す態度は強固で、廊下に出ようとするのをやんわりと押し止めて部屋の方へと促す。  その看護師がちらりとオレの方を見て、視線だけで行ってくださいと訴えてくる。    何が起こっているのかははっきりと分からなかったけれど、訳のわからない人間がここに居ても迷惑になるだけかと、ぺこりと頭を下げて足早にその場を立ち去った。  柔らかい体を抱き締めてクッションに埋もれると、もう何もかもがどうでも良くなってこのまま死んでしまいたいって思えてくる。  マシュマロのような とか言うけど、もっと柔らかいと思う。  頼りない体重のせいか、体の上に乗っていても全然重くない! 「あの……雪虫さん、この体勢……」 「きじょーいが、よろこんでくれるって聞いたから」 「────っ!」  どいつだっ!  どこのどいつが雪虫にそんな言葉を教えたっ⁉ 「は!?え⁉」 「上にのっかるんだよって」  そう言うと雪虫はオレを敷布団代わりにもぞもぞと体勢を整えて落ち着いてしまう。 「え、あ、え⁉」 「しずる、あったかいね」  胸に頬をつけながら幸せそうに微笑まれると、間違いだとか指摘する気も失せてしまって……  とりあえずぎゅうぎゅうになってしまった下半身をちょっとでも楽にしようと体をずらした。  さらさらと細くて柔らかい髪を指先で幾度も梳く。  こうやっているとここ数日のドタバタが夢だったんじゃないかって思えてしまうほどだ。

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