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雪虫3 46
番になったからか雪虫の体調はずいぶん落ち着いているし、いいことばっかりだ。
……みなわがオレを息子だって思い込んでる以外は。
「どうしよっかなぁ」
「?」
小さな呟きだったけど、ゼロ距離だからはっきり聞こえてしまったらしい。
何事かと雪虫が顔を上げるから……頬が離れてしまって、その部分がうら寂しい。
叶うならば常に引っ付いているか、溶けて混ざって離れられなくなりたい なんて、ちょっとアレなことまで思ってしまう。
「雪虫のこと?」
「違くて、ちょっと困ってて」
「ほかのこと考えないで。しずるは雪虫のことかんがえてて」
ぷく とほっぺを膨らませて拗ねるから、ついつい丸い部分をつついてしまう。
そうするとぷしゅって空気が抜けて、柔らかな……触れているのか不安になるくらいの柔らかな感触がする。
「ごめん」
雪虫の言葉が無茶ぶりだとはどうしてだか思わない、そうできない自分が力足らずなんだと落ち込んでしまうほどだ。
「しずるは、何にこまってる?」
頭を傾けたために銀色のような金髪がさらさらと胸を叩いて、くすぐったいのに幸せで……
「えっと 」
雪虫に他のΩの話をしていいものなんだろうか?
妬いてくれる姿も見てみたいこともなくもないけど、余計な物事で煩わせたくないと思うのも本音だった。
「なんて言うか……難しいこと?」
「……雪虫にわからないと思って、なんでもかんでも隠しごとして、ぜんぜんなんにもはなしてくれないから、すねて……えっと、」
「えっと?」
「えっと、 えっちなことももうしない、かってにしたらいいよ?」
「なんで疑問形なんだよ」
ぷっと噴き出すと、雪虫がぷくりと膨れる。
「だって、そうセキが言ってたもん」
「あー……大神さんに向けてだろ」
「うん」
どうせまた仕事に同行させてもらえなかったって拗ねてただけだろ。
ってか、雪虫の前でそんな愚痴言わないで欲しい。
あの二人は二人でいったい何をやってるんだって気もする。
番になっちゃった人間の上から目線なんだろうけど、噛んだからって何が変わるわけでもなし、幸福度が上がったって程度なんだから噛んでやればいいのに……って、αのオレは思うけど。
傍で見てて、セキが大神以外の奴にって考えられない思うのに。
ただ……Ωは一度噛まれたら取り返しがつかないんだけど。
「って、おっさんはベータだ、ベータ」
前にもこんなこと言ってたことを思い出して溜息が漏れる。
何度も同じ間違いをしてしまうのは大神の匂いが明らかにαのものだからだ。
フェロモンを感じる程度の奴らなら誤魔化せたかもしれないだろうけど、αとβの匂いの違いがオレにははっきりと分かる。
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