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落ち穂拾い的な 拗らせてます

「あのぉ」  控えめなノックがされて、ついさっき元気よく退勤していったしずるが顔を覗かせる。 「忘れ物かい?」 「や、まぁ……そうです」  珍しいこともあるもんだと思ったものの、適当に取って行くだろうと放置していたがしずるの気配は動かない。 「?どうしたんだい?」 「えーっとですね」  もごもご と何事かを言うが僕のところまでは聞こえない。  しずるに向けてひょいと片眉を上げてやると、なんとも形容しがたい顔を赤くして扉のところに立ったままだった。 「その、あの、……」  随分と言い出しにくそうな気配に、何を言いたいのか理解したけれど黙っておくことにする。  彼には悪いとは思うけれど、僕の意見としては『健全なままでいてもらいたい』だからだ。  それならば、雪虫にも安心して使えるコンドームの話なんてしない方がいい。 「っ  っっ ご、ゴムっくださいっ!」  精一杯の勇気を振り絞ったと言わんばかりの声量に、すっとぼけてやろうと言う気が霧散する。  彼は、必死なのだ。  かつて自分が必死だったように、彼もまた愛する相手のために全力で出来ることをしているだけ。  ……例えそれが、相手を追い詰めているのだとしても。 「いる?」 「い、い、いりますっ!」 「しょうがないねぇ」  そう言って棚の箱を指差す。 「そこに入れてあるから自分のサイズを持って行くといいよ。今度からは勝手に持って行っていいから」 「ぅ、あ、ありがとうございます……」  今にも顔から火を噴くんじゃ……って顔色でしずるはささっと棚に駆け寄って箱を漁る。   「あ、でも当分は駄目だよ?病み上がりだからね」 「 っ!…………で、ですよ、ね」  頭から湯気でも出てやしないかとつい目を眇めてしまう。 「わ、わか、わかってますって。あの、これは、その、念のために……だけなので……そんな、雪虫に無理をさせたいわけじゃないんで……」  もごもごと言いつつも手はちゃっかりとコンドームの箱を鞄に入れている。  とは言え、よく我慢している方だと思う。  雪虫のフェロモンが弱いとは言え、互いに惹かれ合った運命同士が我を忘れて陸み合うのを理性で押さえているのだから……  様々なケースを見てきただけに、しずるの我慢強さは驚くほどだ。 「ただ、ただ……あの、やっぱり、ちょっと、……さわ、りたい、じゃないですか」 「溜まってるんだったら大神くんにお店連れてってもらいなよ~君好みの子がいる店も網羅してるよ」 「っっ!そう言うんじゃないですっ!オレはヤリたいんじゃなくて雪虫に触りたいんですってば!できれば、最初の時はあんなことになっちゃったから、もっとちゃんと準備して、ふかふかの布団とかすぐに水分をとれるようにしておいたりとかっそれだけじゃなくてもっと雰囲気を作ってっ雪虫にはめちゃくちゃきもちよ     」  耳を覆うとしずるの声は遠退いて、静かな世界が返ってくる。 「さて、どうしたものかな」  呟きながら視線を動かすと、一人照れながらセカンド童貞を拗らせた夢を語り続けている姿が見えた。 END.    

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