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落ち穂拾い的な 雪虫が守る
研究所の中庭にしずるの短い悲鳴が響く。
無様に倒れ込んで気を失ったしずるを見下ろして、大神はふぅと一息吐いて振り上げたままになっていた足を下ろす。
「全然だな」
もう一発蹴りを……と重心を動かしたところでその大きな背中に何かが当たった。
ぽこん と言うほどでもない。
葉っぱでも飛んできたのかと思わせるほど軽い感触だったが、大神の気を引くには十分だった。
「────雪虫」
振り返った大神の動きで薙ぎ払われてしまいそうな、そんな頼りないΩ。
ほんのわずかに体が触れただけでも、雪虫にとっては大ダメージだろう。
「何をして 」
「 っ」
明らかに怯えて震えていると言うのに、ぺちん と大神の背中に小さな拳を振り下ろし、水の膜の張った瞳で睨みつける。
「 っ」
青い瞳が揺らいで雫が溢れそうになる姿に大神が動揺した瞬間、雪虫は倒れ込んでいるしずるの上に覆い被さり、頼りない手でその体を力一杯抱きしめた。
「ゆ 雪虫が、守るもんっ しずるを ま 」
普段は恐れて近寄りもしない雪虫が、色の薄い唇を震わせてそう告げる。
「まもるんだからっ」
まるで自分に言い聞かせるように叫ぶと、逃げ出すことなく大神に向かって顔を上げた。
小さい と大神は雪虫を見ての素直な感想を胸中で呟く。
色がないと言うだけで儚げだと言うのに、しずるが嘆くほど食事を摂らないせいかその体はあまりにも華奢で……
同じように小さいが生命力に溢れたセキとは正反対の姿に、大神は目を眇める。
まるで今にも、日の光に溶けていなくなってしまいそうだ と思う。
「 そうか」
元々体が丈夫ではないと言う報告は受けていたが、食事をすることができればもう少し と思考を巡らせて大神は首を振る。
しずるですらできなかったことに加えて、雪虫の身の上を考えるならば食事を強要することはできないと大神は理解していた。
「雪虫」
大神に名を呼ばれると、まるで獣にでも吠えられたかのように雪虫は飛び上がる。
「お前は今、幸せか?」
思ってもみなかった言葉なのか、雪虫は大きな目を更に大きく開きはしたがこくりと頷いてみせた。
「雪虫は、しずるのそばにいてしあわせ」
自分の抱き締めているしずるに視線を遣ると、白い頬にさっと朱に染めて言葉通り幸せそうに微笑んでみせる。
「そうか」
「大神も、しあわせ?」
「 」
そう問いかける雪虫は怯えていると言うよりは、自分よりはるかに大きな大神に対して慈愛をもって気にかけるような表情を浮かべて……
真冬の青さを持つ瞳に射すくめられて、大神はらしくもなくぐっと言葉を飲み込んだ。
「大神も、すぐにしあわせになるよ」
「…………」
ざり と大神の足元で土が擦られる。
「 オレには、関係のないことだ」
まるで言い訳のような口調で告げると大きな背中を向けて大神はその場を立ち去った。
END.
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