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狼と少年 3

 何かを言いかけたのか、大神の口がわずかに開いたがすぐに閉じてしまう。 「……っ」 「大神さん?」  ぎり と奥歯を噛み締めるような気配を漂わせたのち、大神は深い息を吐きながらセキからそろりと距離を取る。   「  直江に送らせる。今日はもう帰れ」 「えっ」  わずかにできた距離を嫌がるようにセキの手が大神の服を掴み、縋るように分厚い胸板へと飛びつく。  突然飛びつかれたとしてもそんなことくらいではびくともしない大神の体に腕を回して抱き締める。 「おい」 「やっ!いやですっ!なんのためにマッチングを受けたと思ってるんですか!」  なんのため と言われても、Ωであるセキの番を見つけるためだとしか答えを持たない大神はむっと口を噤んだ。  唇を引き結ぶと厳めしい顔が更にそれを強調して、見下ろされると捕食対象になったかのような錯覚に陥る。 「マッチングに行った後は、必ず会ってくれるからですよ?」  ぎゅう と抱き着いているために、じわりと沁み込むように互いの熱が滲み合う。  ほんのわずかな、薄い布を隔てていると言うのに素肌同士を触れ合わせているかのように錯覚するのは、それだけ二人が体を重ねてきたからだ。  初めては無理矢理に、わけもわからずに大神に組み敷かれたと言うのに、今のセキにはそんなことはどうでもいい話だった。 「報告を聞く責任があるだろう」 「それでもいいんです!いつもは忙しいって会ってくれない時もあるじゃないですか」 「それは仕事だからだろう」  至極真っ当な答えのはずなのに、セキはぷくっと頬を膨らませてみせる。  そうすると年相応なふうに見えて、大神は思わず目を細めた。 「仕事とオレとどっちが大事なんですか」  拗ねた口調はあえて面倒くさいことを言い出したのだと教える。  それだけ大神に構って欲しくて…… 「今も仕事中だ」  その風体と肩書きの割に大神はそのことに関してはひどく真面目で、セキは大神は休暇らしい休暇を取っているところを見たことがなかった。  直江に言わせると自分が来てからきちんと睡眠はとるようになったと聞いて、セキは落ち着かない気分になった。  幾ら屈強でも人間である以上、無理をし続けたらどうなるかは明白で…… 「ちょっと休憩しませんか?」 「何を  」  セキは大神の問いかけに応えないまま、実用本位のネックガードで苦しそうな首元からするりとネクタイを引き抜く。  そしてそのまま真白いシャツに手を当てて、す……と動かしてみせた。  下に肌着をつけていないのか、手で押さえられた箇所の薄い生地が淡い桜色の肌を浮かび上がらせ……    

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