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狼と少年 10

「何を思い詰めている」 「  っ」 「話したくないなら話さなくていい」 「  ……」  突き放すようなことを言っているのに、大神の手はセキの頭を自身にもたれかからせるように動く。  岩のような、何にも揺らがないのではと思わせる体にもたれかかり、セキはぐずぐずと鼻を鳴らした。 「気に なら、ないんですか」  しゃくりで途切れがちな声は大神を非難しているように聞こえる。  それが面白くなかったのか、大神は呆れたような雰囲気を滲ませた目で睨みつけ、癖になってしまったかのようにもう一度溜息を吐いた。  仕事を邪魔されたのは大神の方で、誘われたのにおあずけを食らっているのも大神だ。    セキの理不尽な物言いに反論してもよさそうなものだが、大神はそれを飲み込んだようだった。 「どうせ喋るだろう?」 「っ⁉」 「問いただすまでもない」  そう言うと大神は軽く引っ掻くようにセキの後頭部を撫で、伝うように指先を滑らせて黒い無骨なネックガードをコツコツと鳴らす。 「そ、そんな、こと、っ ゃ、おおがみ、さ、それ、や ん、ン  」  そこが急所だからなのか、それとも番契約としてαに差し出す大事な場所だからなのか、Ωは項に触れられることに敏感だった。  それはセキも例外ではなくて、まるでモールス信号でも打つかのようにトントンとリズムよく叩かれると、セキはムズムズと落ち着かない気分になって体をくねらせるしかなくなる。 「や、そこ、や、ゃ、っ」 「いやなら膝から下りればいい」 「⁉ んっ ン、っ……か、噛むならっ……噛んでくれるなら触っても、いい、ですよ」  ぴく と大神の指先が止まった。 「大神さん、噛んで」  まるで火にでも触れたかのように手を引っ込めようとした大神の腕にしがみつき、セキは繰り返し首を振る。 「噛んでくださいっ」 「なにを……」 「くす、くすりっ発情できるアレを使って、今すぐ噛んでくださいっ!コレもっこれも取ってっ!取ってくださいっ」  セキの指が自分の喉元をがむしゃらに引っ掻いたために、白い肌に幾筋もの赤い痕がつく。  繰り返し引っ掻かれた箇所は耐え切れなかったのか血を滲ませて…… 「あかっ!」    久しく呼ばれた名前はセキの動きを止めるのには十分だったようで、まるで静止画のように動かなくなる。  一呼吸、二呼吸、ほんのわずかな間の沈黙だと言うのに、じっとりとしたそれは粘つくように間延びしたかのようだった。   「お ねがいです、噛んで、大神さんのに、してください」  ぶるりと腕の中の体が震えた後、絞り出されたのはその言葉だ。  

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