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狼と少年 13

 ぐず と鼻を啜りながら、セキは何も言わずにこくりと小さく頷いて返した。  行先はいつもの店だ。  いつもの と言うのは、甘いものを食べられない雪虫に内緒で食べに行く店で、セキやうたと共に訪れることの多い場所だった。  可愛らしいピンクとグレーのオーニングテントが目印のそこはケーキが専門だったけれど、店の一角でジェラートも売っていると言う店だ。 「いつものでいいか?」 「……ん」  いつもはどれを食べようかとワイワイとするのだけれど、窓に近い席に腰を下ろしたままセキは動こうとしなかった。  しかたなくしずるはいつもセキが選ぶモンブランと新作のケーキ、それから自分の分のチーズケーキとそれぞれの飲み物を注文して戻ってくる。 「今回の新作、オペラだって」 「そ  」  ぽつんと言葉を返すと言うことは、会話したくないと言うわけではなさそうだった。  しずるはこちらから何か会話を振るべきか迷い、口を開いては閉じるを繰り返す。  結局、何も言い出せないままケーキが運ばれてきて、無言のまま口をつけることになる。 「…………ねぇ」 「へっ!」  ガチャ とティーカップが音を立てる。 「雪虫の項を、噛みたくないって思ったことってある?」 「ぇ、えっ⁉」  思ってもなかった言葉に、しずるは何か考える前にぶるぶると首を振った。 「そ、そんなことあるわけない!ずっと噛みたかったし、なんなら今も噛みたいしっ毎日噛みたいっ!」  雪虫の項に噛みついた時のことを思い出して、しずるの顔がぱっと朱色に染まっていく。 「噛みたくない って、思う相手ってどんな人?」 「え?え? あ、いや、噛みたくないも何も、オレは雪虫以外何も考えないから」  縁を赤くしたセキに睨むように見つめられ、しずるは居心地悪くもじもじと座り直しながら考える素振りを見せる。  その答えがわかりきった返事をどう言うふうにセキに伝えようかと迷い、そろりと口を開いた。 「オレ……あくまでもオレの考えだからな!オレは……雪虫以外噛みたいとは思わない」 「雪虫以外?」 「好きな相手以外」  言い直して、きつい言葉だったかとそろりとセキを見る。  項を噛む行為は番を持つための契約行為だ。  お互いがお互いを結びつけるために施す契約印。  それぞれを結びつける理由は、愛情に他ならない。  他の人間に対して同じような愛情を抱けるか否かで答えるなら、しずるの答えは決まっていた。 「…………」 「や、あの、だから、……あの   」 「やっぱり、好きじゃないと噛まない よね」  はく としずるの唇が動く。  けれど言葉は出ないままで、セキの言葉を否定することはなかった。 「ちょっと、大神さんの特別かなぁって思ったの、勘違いだったかなぁ」

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