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狼と少年 14
「あ 」
そんなことはない の言葉が、今はどれほど無責任なのか……しずるは何と答えたものかと考えながら紅茶を啜る。
しずるの個人的な意見だけで話をするならば、セキほど大神の特別はいない。
大神に軽口を叩ける直江と言う存在もいるけれど、直江が危険にさらされた時に大神は身を盾にしてでも助けようとはしないだろう、けれどセキの場合は……
きっと大神は自分の身を省みない。
αとしての感覚で感じ取ったそのことをどう言葉にしようかとしずるは小さく唸る。
「……どうでもいい人間に、マーキングなんかしないよ」
これは自分のものだと宣言するマーキングは、ただ体を擦りつけるだけではない。
相手に踏み込ませないように、そう言ったフェロモンを擦りつける必要がある。
しずるは、大神がわざわざ興味のない人間にそんなことをする人物だとは思えなかった。
「そ れは ……変なのに引っかからないようにって、大神さんの気遣いだよ」
「 」
すでに変なのに引っかかってる の言葉を飲み込んで、「おっさんが気遣い?」と呆れた声を返す。
「組?のごたごたで保護したオレが、ちゃんとするまで……保護者代わりに……面倒見てくれてるだけで」
「保護者はセ……えっちなんてしないと思うけど」
「それはっオレが抑制剤の効きが悪いから」
「それこそ、放っておいたらいい話だろ?ヒートの時は部屋に閉じ込めておけばいいだけの話なんだから。わざわざ仕事調節してセキのヒートに付き合うなんてことないだろ?」
セキは膝の上でまた爪をぷちんと鳴らす。
「それは それは、……大神さんだって、息抜きしたいだろうし……そのついで とか」
「いやいや、それは苦しいだろ?」
「……じゃあ せ、責任感 から、かな」
「だったらマッチングの邪魔なんてしないだろ」
そう言ってチーズケーキをつついた。
マッチングの日取りが決まる度に、大神がセキにマーキングしているのをしずるは知っていた。
そしてあれだけ威嚇をするような臭いをつけられたら、並のαじゃ近寄れないことも……
「邪魔、じゃなくて、あれは……選別してるんだって。弱いアルファじゃオレのヒートについてこれないからって」
プチプチと爪を鳴らす音を聞きながらしずるは吹き出しそうになるのを懸命に堪え、ぐっと喉を詰まらせる。
何を言っているんだ と叫びそうになったのを耐え、いやいやと首を振った。
「それ、おっさんが言ったの?」
「え?……うん」
はは と今度は堪え切れなくて乾いた笑いが漏れる。
なんて馬鹿馬鹿しいことに付き合わされているんだと言う意味合いを含んだ笑い声に、セキがむっと唇を尖らせた。
子供っぽい、ぷく と頬を膨らますような拗ね方に苦笑を漏らしてしずるはひらひらと手を振る。
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