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狼と少年 15
「なんでそんなバレバレの嘘を吐くかな」
「嘘 じゃないよ。大神さんは嘘吐かないもん」
どんどんと膨らんで行く頬を見て、しずるは番の雪虫を思い出す。
怒り方と言うか、拗ね方がそっくりなんだとまったく関係のないことを考えながら、この犬も食わないような二人の関係についてどうしてやればいいのかと頭を悩ます。
大神が、セキに執着しているのも知っている。
大神ならば、あっさりとセキを番にすることができることも、しずるはわかっていた。
それでもそれをそうしないのは……
「じゃあ、何か理由があるんだろ」
「りゆう」
ぽつんと呆けたように繰り返すと、セキはまるで小さな子供のようだった。
「聞いたら、教えてくれると思う?納得のいくような……」
「もしくは、話せないような内容かもしれない」
「うっ」
「オレ達が思ってるよりもおっさんはいろんなもの背負ってるんだからさ。それこそ、今はないけど とかさ。全然知らない世界の話だろ?」
『ヤクザ』の言葉はあえて口パクで喋り、しずるは「な?」と同意を促す。
「それは……そうなんだけど、さ」
「でも、でも……噛むくらい、してくれてもいいと思う」
「いやいやいやいや、何を軽く言うんだか」
「っ!それはっ自分だけ幸せだから言えるんだろっ」
ずるい! と言われてしずるは顔をしかめるしかない。
幸せになりましょう同盟を作って、お互い励まし合っていたのは少し前の話で、今ではしずると雪虫が番になってしまったために活動休止もいいところだった。
「いや、だって、噛んでみて思ったんだけど、すげぇ覚悟のいることだったんだなって」
華奢な雪虫の首を噛み切らないようにと添えた指についた歯型に目を遣り、しずるは自分の考えの浅さに苦笑を漏らす。
「番になる前はさ、噛めばいいってだけしか思わなかったんだけど……それってさ、相手の人生背負うことなんだって。今更って言われたらそうなんだけど、噛むことって相手を傷つけることだし、噛んだら一生消えない傷をつけることだし、死ぬまで自分に縛りつけることになるし 」
指についた歯型の痕は皮膚が薄いせいか、触るとぴりぴりとした感じがしてくすぐったい。
「オレがそれを背負うならいいんだけど、実際は雪虫が背負うだろ?」
「 」
「どうしても不利になるオメガをさ、ちゃんと支えてやれるのかとか幸せにしてやれるのかとか、番った後の方がずっとそんなことばっか考えてて。もしかしたら、もう一人のアルファの方が雪虫にとってよかったんじゃないかとか」
行儀が悪いと分かってて、しずるは目の前のチーズケーキをフォークでつついた。
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