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狼と少年 16
「今回、みなわとのことで、アルファがどれだけオメガの人生を狂わすことができるかわかっちゃったから余計に さ、雪虫と番になれて嬉しいし否定はしていないけど、ベストだったのかって迷ってる自分がいるよ」
「……」
「ましてや、オレの出生がなんかアレみたいだし」
大勢のΩ誘拐事件に絡んでいるとされる仙内のことを、セキは直江から軽くだけ説明を受けていた。
その男が、しずるの父親らしいと言うことも……
「なんか正体のわからない、訳のわかんない奴と縁続きにしちゃって悪いなとか、思うし はは」
しずるの言葉はだんだんと弱くなり、掠れたような乾いた笑いが漏れる頃には萎れるようだ。
「大神さんが怪我したあの事故だって 」
郊外の多重衝突事故……と報道されてはいたが、それが事実でないことを二人は知っていた。
大神を排除しようとした仙内側が起こしたその事件は、大勢の怪我人と死亡者を出して……
家にトラックが突っ込んだ際、リビングにいた瀬能が無傷だったのは奇跡だったのだと、しずるはそれも思い出してぶるりと震える。
「あんなことをする奴らに関わって……もし、オレになんかあったら?雪虫はこれからずっと独りでいなくちゃいけない」
「そんなの……誰だって、先はどうなるかわからないのにっ」
「わからないけど、確率が高いか低いかは別だろ?」
「何かあるかないかだけだろ!」
むっとしたように言い返すセキの言葉に、しずるは困ったように苦笑した。
「そんな極端な話じゃなくってさぁ」
「危ないから番が持てないなんてなったら、誰も番えないじゃないか!」
「そうなんだけどさ。やっぱ……好きな分だけ怖くなるよ」
あはは と照れくさそうに笑い、「後悔はしてないけど怖いよ」と呟く。
セキは項垂れたしずるを眺めながらもう一度ぷちんと爪を弾き、倣うようにして項垂れる。
「……二人が番になっちゃって、それに大神さんも怪我して……それに、ちょっと怖くなっちゃって……」
「今日、マッチングだったんだっけ?」
「うん」
馴れ馴れしく相手が触れてきた肩を掴み、セキは不愉快そうに鼻に皺を寄せた。
大神には相性は良くなかった と答えたものの、今回の相手は今までの誰よりも……
「いつか、運命とか言うのが現れて、オレが訳わかんなくなって大神さんの手を振り払っちゃうんじゃないかって」
「……そっか」
しずる自身、運命の相手を番に持つ身のせいかセキの気持ちがよくわかった。
他の、何もかもを忘れさせてしまうようなあの引力の強さを……
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