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狼と少年 17
他の全てをかなぐり捨てたくなる存在のことを、αやΩに産まれた者が決して無視できないことを……
「オレは、大神さんが運命だって信じてるんだけど……」
「……」
しずるは答えに詰まって口を開けないでいた。
大神とセキがそうであるかないかは本人たちにしかわからないことだ、けれどその可能性があるのを言っていいものかどうか判断がつかなかった。
……あれほど、大神が自身のバース性を隠そうとしているのだから、なんらかの理由があるのだろう と。
それこそ、セキを突き放さなければならないような……
「オレは大神さんが大好きだし、大神さんだけだし、大神さんになら何されてもいいし、なんならいっぱいタネつけしてくれてもいいのにっ!」
「うわぁっ!お前なに言い出すんだよ!」
「オレ、大神さんの子供ならいっぱい産めると思うんだ!」
「あわわわわっだからっこんなとこでナニ言い出すんだよ!」
「もうなんだったら大神さん専用の孕み袋でいいか もがっ」
セキの口にケーキを突っ込んで、しずるははぁはぁと肩で息をしながらきょろりと辺りを窺う。
幸い店には他に客はいなくて、カウンターの店員が目を白黒させているくらいだった。
慌てて頭を下げて、小さく身をすくめてみせる。
「いい加減にしろよ、ここに来れなくなるだろ!」
「あ、ごめん……最近オメガ同士でつるんでるからつい」
「ついってなんだよ」
「けっこう、際どい話題が多くて……あはは」
と、セキは笑って誤魔化す。
「その集まりって食堂の?あれって雪虫もいたよな?変なこと吹き込むなよ⁉︎」
「変なことは話してないってば、対アルファ用のテクとか情報交換してるだけで」
「それが変なことだって言うんだよ!雪虫が卒倒したらどうするんだよっ」
「なんだよソレ、しずるはちょっと夢見過ぎじゃない?」
つん と返されて、しずるはむっと唇を曲げた。
「オメガは別にか弱くないし儚くないもん!守られてないと生きていけない生き物じゃないし!それに、しずるはよく幸せにするって言ってるけど、それ自体が違うよ!オレ達だって幸せにしてあげたいんだから!」
「ぅ 」
「なんで幸せにしてあげなきゃなんだよっオレ達は自力で幸せになれないとでも思ってるの⁉」
「や、そ、そんなことは 」
「第一、十分幸せだし!」
はっきりと言い切り、もう一つのケーキを頬張る。
「お ……大神さんの傍に置いてもらえてるだけで……幸せだもん だから、それ以上望んだ、オレが悪いんだ……」
二口目を頬張ろうとした手が止まり、膝の上にぼとんと大粒の涙が零れ落ちた。
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