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狼と少年 18
「……泣くなよ」
泣き出されてもどう慰めていいのかわからず、しずるは呻くように言って気まずく身を縮める。
「えっと……おっさんだって、本当に嫌なら傍に置いたりなんかしないと思うし」
「そ、そんなことないよっ大神さん、責任感強い人だしっ」
強いことは強いだろうけれど、殴る蹴るとかの力業解決の方が似合ってそうな大神のイメージのせいで、しずるは曖昧な表情を浮かべるしかできない。
その曖昧な表情にセキはまたも顔を歪めた。
ぼたぼたと遠慮なく流れる涙をぬぐいもせず、心の底から絞り出すように言葉を漏らす。
「オレは……大神さんの負担になりたくないんだ」
負担なんかじゃない と告げても、きっと今のセキに届かないことを知っていたしずるは答えを見つけることができないまま、テーブルの紙ナプキンを数枚取って乱暴に押しつけた。
「どうしても諦められないし、離れられない 」
数枚の紙ナプキンではセキの涙はぬぐいきれず、すぐにあふれてぱたぱたと膝を打ち始める。
「これ以上を望まないようにする方法って……ないのかなぁ」
「あ、えっと…… 」
もう少し人生経験が豊富そうな瀬能ならばもう少しうまい慰めができただろうかと、答えられないまま再び紙ナプキンに手を伸ばそうとした。
「 もしよろしければこちらをどうぞ」
涼しい声と共に差し出されたのは一枚のハンカチだ。
綺麗にアイロンが当てられたそれを受け取りながら、セキは「すみません」と濁音交じりの声を出す。
差し出してきたのはさっきカウンターの向こうで目を白黒させていた店員で、さすがにここまで騒いだのが気にかかったらしかった。
「いえ、泣いてたのが気になっちゃって」
にこにこと笑う店員は雰囲気がよくて、セキの大声や号泣をまったく気にしていない様子だ。
「ありがとうございます、ハンカチはクリーニングして返しますので」
「いえいえ、気になさらないでください」
「 あの、 」
手を振って去ろうとする店員の背中に、しずるは思わず声をかけた。
きょとんとこちらを振り返る姿に……
「え、や、あの、えっと、 ごちそうさまでした……?」
うまく言葉が見つけられず、曖昧な表情のまま適当な言葉を言うと店員がくすくすと笑う。
「ありがとうございます」
にこやかな返事は店員としては間違いのないもののはずなのに、どうしてだか気にかかって……
けれどその答えを見つけることができないまま、しずるはセキの肩を叩いた。
「いこっか」
「ん……」
涙はいまだ止まっておらず、借りたハンカチもあっと言う間にぐっしょりになってしまいそうだ。
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