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おはようからおやすみまで 5
最初は藪秋も抵抗してたけど、オレが離れる気がないんだって思うと手足を放り投げてしまう。
苦笑しながらなすがままになっている藪秋は、百歩以上譲っても可愛いと思っちゃうんだから惚れた方が負けだってよく言ったものだ。
「俺まだ仕事に回らないといけねぇんだけど」
「じゃあ、汚さないように服ぬいどこっか?」
そう言う話じゃないのは百も承知だけど、そう言うことにしとかないと藪秋はさっさと仕事に戻っちゃいそうだから、あえてすっとぼけながら黒いシャツのボタンをはずして行く。
こんな職業をしてるから、刺青とかタトゥーの一つでも入ってるのかと思っていた藪秋の体は、ところどころ傷跡はあってもそれくらいで普通だった。
前に、刺青とか入れてないんだねって聞いたら、味噌汁に味噌入れたら入院になってその間に組が潰れたからとかなんとかわけのわからないことを言われたんだけど……
筋肉質なこの体に、タトゥーとか入ってたら入ってたでかっこいいのかもしれないけど、そんなのなくたって藪秋は十分かっこいいし!
イケメン、だと思う……
「おい、お前の方こそ服脱げ」
「え?なんで?」
とは言え、汚すから脱ぐけど。
「なんでって……」
自分を見下ろして、どこをどう見てもなんの変哲もないただの学ランだ。
「……なんか、ダメなことしてる気分になるだろ」
ぶつぶつと呻くように言うけど、実際ダメなことしてるんだよってことは黙っておいた。
もっとも、藪秋がそれを気にするって言うのなら、オレは制服に未練なんてないからいつだって放り出したっていい。
「んふふーオジサン~、めっちゃサービスするからこれでどう?」
そう言って意味ありげに指を立ててみせると、顔をしかめた藪秋にぎゅっとその手を握られる。
「随分と安いな」
「え⁉」
「俺は毎月、もっと貢いでると思うんだが……小遣い足りてねぇか?」
「ちがっ 冗談だよっ」
「ははは!」
藪秋に馬乗りになって、その胸をぽこぽこと叩くと盛大な笑いが返って……
オレはふくれっ面をしながら温かい胸に倒れ込んだ。
どきどきと脈打っているのを確認して、嬉しくなりならがらパタパタと足を振り回す。
「もうっ冗談なのに!ちょっと乗ってくれてもいいだろ!」
「わかったわかった」
そう言ってごつごつとした男らしい手がオレの頭を掻き混ぜるように撫ぜて、ついでのように前髪を上げていたカチューシャを取り払う。
前髪を下ろすと歳よりもずいぶんと若く見えるから嫌なんだけど……
それを見て藪秋がにこにこするから、まぁいっかなって思う。
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