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おはようからおやすみまで 10

 あんな小さな体に、あんな量が入るなんて思えない。  きっと、捨てられるに違いない。 「……だったら、痛い思いする必要ないのに……」  ミルクだってあるんだから、こんなに痛い思いをさせずにそれを飲ませればいい。  産む時だってメチャクチャ痛くて、その後だって痛くて、更に痛い思いをして母乳を絞って……  体も思うように動かないし、好きなものを食べることもできない。  制約だらけで……遊びに行くこともできなくて…… 「   なんでこんなことになってんだ」  正直、子供を産んで数日経った今でもオレに子供を産んだ実感はなくて、抱いてみるように言われても手を伸ばすことができないままだった。  そんなオレの代わりに、タマコを抱っこして涙ぐんでいる藪秋を見ていると、なんとも言えない気分になる。 「すっげぇな!ちっこくて軽くて……でもちゃんとしっかり手足動かしてて   」  オレに向けていたようなちょっと気取った表情じゃなくて、でれでれに崩れた今まで見たことがないような表情だ。 「シゲル?」  問いかけるように名前を呼ばれたけれど返事をせずに俯き続ける。  飽き飽きした病院の掛布団を眺めて、なんと形容したらいいのかわからない気持ちになって藪秋の顔を見ることすらできない。  頭では、顔を上げた方が良いってわかってる。  頭では、相槌を打った方が良いってわかってる。  頭では、藪秋に感謝した方が良いってわかってる。  わかってる、のに……オレの感情は動いてくれない。    なんの反応もしないままのオレに、藪秋は怒ることもなく握りしめたままにしていた手にそっと触れてくる。   「今日の午後、先生から話があるが、聞けそうか?」 「……オレ一人?」 「俺もいっしょに聞くから」 「……わかった」  掌から伝わってくる感情は安堵だ。  あったかい手はいつもオレに差し伸べられていたものなのに、今日はこの手にタマコを抱き締めていた。  オレに向けたことのない顔で。 「何か俺にして欲しいことはあるか?」 「……」 「お医者がダメって言うのはダメだが、それ以外ならなんだって  「セックス」  オレが被せた言葉に、藪秋が固まる。 「ぁ、ぇ、え⁉」  きょときょとっと藪秋の視線が周りを確認するが、搬入された先は大きな病院だったけれど産科は大部屋や相部屋は一切なくて個室ばかりだったから、人目を気にする必要はない。  オレは藪秋の手を掴んで、重ねるように「セックスしたい」ってはっきりと告げた。  腕から伝わる藪秋の戸惑いと、身を引こうとする気配に…… 「できないくせに」  そう唸るような声が出た。  

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